No.92 正月に縁起の良い赤い実の木
2022年も師走を迎えて気ぜわしい時期になりました。この季節になると花屋さんやDIYの園芸コーナーでセンリョウやマンリョウを目にします。これらの植物は冬に赤い実を付けるので、江戸時代に正月の縁起物として飾られるようになりました。特にセンリョウは観賞用の植木として、又お正月の切り花として人気があります。
センリョウの名の由来は、元々は中国名で仙蓼(せんりょう)と呼ばれていましたが、後に縁起を担いで千両の名が当てられました。マンリョウはその昔アカキと呼ばれていたそうですが、センリョウよりも実が大きくて立派なことから万両と呼ばれるようになりました。
1. センリョウ(千両)
センリョウは常緑の小低木で半日陰の森に見られます。くろんど園地では人工林の中に良く見られます。葉には荒い鋸歯があり、花は目立ったものはなく、1個の雌しべと1個の雄しべが別々につくようです。実は枝の先に上向きについて全体に「シュッとした感じ」で見栄えがするので人気があります。
植木や切り花としての生産量は一番多いようです。
2. マンリョウ(万両)
葉はセンリョウに似ていますが、葉の周囲に波打ったような鋸歯があり、実はセンリョウよりも大きく、葉の下にぶら下がるように着くのが特長です。マンリョウはセンリョウほど人気が無いようですが、実のつき方が葉より下にあり、葉と実付きの姿がバランスよく見えないことに原因があるのかもしれません。
千両、万両、有り通し
さて千両や万両があるのなら、百両や十両、一両はあるのでしょうか?
「千両、万両、有り通し」という言葉を聞いたことがあると思います。この言葉は江戸時代に言われるようになりました。その意味は「お金が千両も万両も年中あって、一生お金に困らずにあり通して欲しい」と言う願いを込めて縁起を担いだ語呂合わせの言葉遊びなのですが、昔の人は赤い実の多い順にマンリョウ(万両)、センリョウ(千両)、百両(カラタチバナ)、十両(ヤブコウジ)、
そして一両(アリドオシ)と並べて金運を願ったのです。
因みに1両~1万両を現代の貨幣価値に直すと大体次のようになります。
一両 一万円
十両 十万円
百両 百万円
千両 一千万円
万両 一億円
3. カラタチバナ(百両)
カラタチバナの名は、昔、この木がミカンのタチバナ(橘)と似た花をつけるので、中国渡来の植物と間違って唐橘(カラタチバナ)と呼んでしまったようです。葉は濃い緑色で細長く厚みがあり、実は葉よりも下につきますが、マンリョウとは違い下から上に向いた花柄に実がつきます。
カラタチバナは江戸時代に人気となり色々な園芸種が作られましたが、中には数百両もするものもあり百両金とも呼ばれました。
4.ヤブコ ウジ(十両)
コウジとは柑子と書き、小さいミカンのことを言います。ヤブコウジは薮にできるコウジで「薮柑子」が名の由来です。日陰や寒さに強く、地下茎が発達して地面を覆うようにして広がって行きます。実は葉の間から下向きにつきますが、赤い実のついたヤブコウジは濃い緑色の葉と相まって正月の寄せ植えを彩るのに欠かせません。正月飾りの主役を引き立たせる名脇役です。
くろんど園地の人工林のあちこちで見られますが、森林整備ではつい踏みつけてしまいますので注意しましょう。
写真4. ヤブコウジ(くろんど園地) 写真5. ヤブコウジの青い実(くろんど園地)
5. アリドオシ(有り通し:一両)
最後は一両のアリドオシです。葉の脇には葉の長さと同じくらいの鋭いトゲがあり、小さなアリも刺し通すと言うのでアリドオシの名がつきました。アリドオシが一両になっているのは、「お金があり通し」と言う語呂合わせの締めの言葉になっているからですが、鋭いトゲがあることも一因かもしれません。
アリドオシは大阪では絶滅危惧種になっていて余り見ることがありません。
アリドオシにはヒメアリドオシ、オオアリドオシ、ニセジュズネノキなど多くの変種があります。
写真6. アリドオシ(くろんど獅子窟寺) 写真7. オオアリドオシ(くろんど獅子窟寺)
おまけ
ツルアリドオシ
アリドオシと呼ばれる植物にはツルアリドオシと言うのもあります。
トゲはなく、葉と赤い実がアリドオシに似ているのでこの名がつきました。
日陰でツルを伸ばし地面をはって広がって行きます。花は必ず2個つき子房部は合着していて実は一つできます。くろんど園地の人工林内や、岩陰などで垂れ下がっているのを見かけます。
写真8. ツルアリドオシの実(くろんど園地) 写真9. ツルアリドオシの花(6月)
(2022/12/13 記:T.T)