No.89 ツルニンジンの花のひみつ

写真1 ツルニンジンの花(ほしだ園地近く)
写真1 ツルニンジンの花(ほしだ園地近く)

 ほしだ園地の近くで、ツルニンジン*1 の花が咲いてました(写真1)。ササにツルをからませて、釣鐘型の花を下向きにいくつもつけてます。花の中をのぞいてみると、先が赤紫色の5枚の花びらが反り返り、釣鐘の形が五角形だったことがわかります。花の奥には、露がついているように蜜が出ています。外から見ると白い花はあまり目立ちませんが、花の中は色や形がなかなか美しいです。

写真2 ツルニンジンの花:つぼみ・雄性期・雌性期(ほしだ園地近く)
写真2 ツルニンジンの花:つぼみ・雄性期・雌性期(ほしだ園地近く)

 ツルニンジンの花は、おしべがめしべより先に成熟することで(雄性先熟)、同じ個体内で受粉すること(自家受粉)を防ぐしくみをもっています。つぼみが開いて花になり、枯れるまでの姿を順にまとめてみました(写真2)。開きそうな蕾*2 の中には(写真2c)、おしべのヤク(葯)が、真ん中のめしべにくっついて、花粉を未成熟のめしべ(柱頭)につけています。おしべがしおれると、めしべから離れて花びらに張りつき(写真2d)、めしべが成熟すると先(柱頭)が3つに裂けています(写真2e)。

 虫が蜜に引き寄せられて花の奥まで入ってくると、おしべがめしべの柱頭に付けた花粉が虫のからだにくっつきます。そして、虫が別の花に入った時に、くっついた花粉が成熟しているめしべに付いて、花粉を運んでもらうという仕組みです。

写真3 キキョウの花:雄性期と雌性期(岩湧山ほか)
写真3 キキョウの花:雄性期と雌性期(岩湧山ほか)

 今の季節、五角形というと、秋の七草のキキョウが思い浮びます。ツルニンジンはキキョウ科で、キキョウも同じように雄性先熟のしくみを持っています(写真3)。

写真4 アリが花の中へ進入することを妨げる仕組み
写真4 アリが花の中へ進入することを妨げる仕組み

 もうひとつ、ツルニンジンの花は面白い仕組みを持っています。アリが花の中へ進入することを妨げる仕組みです[1]アリは花粉を運ばないのに蜜を食べたり(盗蜜)、花粉を運ぶ虫を攻撃、排除して、花粉の媒介を妨げたり、ツルニンジンにとっては困りものです。それで、花びらの内側にワックス結晶を生成して、アリが滑って歩けないようになっています。写真4では、花びらの先の赤紫色の部分が滑りやすく、そこに続くクリーム色の部分より下は滑らない部分になっているそうです。指で触ってみると、滑らない部分は普通の花びらを触った時のように湿り気があって引っかかる感じ、滑りやすい部分はツルツルではなくて、何かが塗られているような感じです。この場所とくろんど園地の2か所で、ツルニンジンの花を15個ほど見たところでは、1個を除いて花の中にはアリがいませんでした*3

写真5 ツルニンジンの花の中に入るキイロスズメバチ(ほしだ園地近く)
写真5 ツルニンジンの花の中に入るキイロスズメバチ(ほしだ園地近く)

 ツルニンジンの花粉を運ぶ虫ですが、キイロスズメバチが結構な頻度で、時には2,3匹が同時に、花にやってきました*4 。反り返った花びらに足をかけて花の奥に入って蜜を吸い、後ずさりして出てきます(写真5)。このとき、キイロスズメバチがめしべ(柱頭)に触れて、背中が花粉で真っ白になっています。キイロスズメバチは体長が1.7~2.5cm、ツルニンジンの花の奥行きが2~3cm位、花の開口部の幅が2~3cm位です。花粉がくっつくのにちょうどよい大きさになっているのですね。また、花びらの滑る部分は先だけなので、キイロスズメバチは滑らずに蜜を吸う事ができるようです。

 ツルニンジンの花は、外から見るとあまり目立ちませんが、花の中は色や形がなかなか美しいです。また、1つの個体に成熟段階が異なる花をいくつもつけるので、花の構造や雄性先熟の仕組みを一度に観察することができます。

しかし、ツルニンジンの主な送粉昆虫はキイロスズメバチで、9から10月は新しい女王バチを育てる時期にあたり活動が活発になります[2]ツルニンジンの花を手に取って観察される際は、くれぐれもキイロスズメバチなどの大型のハチに注意して下さい*4 この記事やネットで、写真を楽しんで頂く方が無難かもしれません。

(ます 2022/09/23)

【より深く知りたい方へ】

*1  ツルニンジンの生態

 キキョウ科、山野に生ずる多年生草本。根塊を持つ。茎は2m以上におよび他の植物などにまといつく。枝の端の葉は4つが相接する。夏秋に小枝の末端に鐘状の花を開く。茎や葉を切ると白い乳液が出て、切り傷に効く。

(出典:牧野日本植物図鑑インターネット版 原著 1940,1956、http://www.hokuryukan-ns.co.jp/makino/index.php )

 

 林道やハイキング道の道端、半日蔭であまり乾燥していない所に、ササやアザミにツルをからませている姿をよく見かける印象です。冬には茎や葉が枯れて、春になると茎を伸ばします。本文に掲載したツルニンジンの花は、先全体が赤紫色ですが、別の場所では、赤紫色が斑紋になってます(補足写真1)。この斑紋を”爺さんのそばかす”に見たてて、”ジイソブ”とも言われます。

 

*2   雄性期の花とおしべの動き

 開いていた花には、おしべがめしべ(柱頭)にくっついた姿がみつかりませんでした。それで、1個だけ、開きそうな蕾の花びらをそっと開かせてもらいました。もしかすると、雄性期はつぼみの間で、つぼみから花びらが開く動作に連動して、おしべが花びらに張りつくように動くのかもしれません。

 

*3  花の中のアリ

 1つの花だげ、中にアリが見つかりました(補足写真2)。アメイロアリと思われる小さなアリが、奥で蜜を吸ったり、花びらを上を自由に歩いてました。この花は、反り返りが大きく、しおれ始めていました。ワックス質の成分が薄れていたのかもしれませんし、この花が例外的にワックス質の成分が少なかったのかもしれません。

 

*4  ツルニンジンの花を訪れた虫

 30分ほど様子を見ていたところ、キイロスズメバチの他には、コガタススズメバチ(やはり背中が白い花粉だらけ)やヒラタアブの仲間がやってきました。大型のハチとしては、この周辺で見かけるアシナガバチやツチバチの仲間は、この日は見られませんでした。

【参考文献】

[1] 武田和也、門川朋樹、川北篤、滑る花びらがアリの花への侵入を妨げることを発見 -新たな花の防衛機構の存在を実証-、京都大学 最新の研究成果を知る (2021.1.12)

https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2021-01-12-0

 

[2] 教えて『ハチ博士』ハチとうまく付き合うために 、八王子市環境部環境保全課

https://www.city.hachioji.tokyo.jp/kurashi/life/004/001/a478925/p002796_d/fil/hachi-hakase.pdf (H28.6.29)

 

関東の状況ですので、大阪の低山では活動時期に差があるかもしれません。

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