ヌスビトハギ と フジカンゾウ、そして アレチヌスビトハギ
お盆休みに金剛山に行ってきました。千早本道を歩き始めると、渓流沿いにヌスビトハギ(*1)が可愛い花をつけてました(写真1)。
花びらは幅が4mm位と、とても小さいのですが、拡大してみると、マメ科の花らしい蝶型になってます(写真2)。花びらの下側に虫がとまると、虫の重みで花びらが開いて、隠れていた、おしべとめしべが現われます。そして、自然と虫に花粉を運んでもらうという仕組みになってます(参考動画:No.49 クマバチはフジの花が大好き!)。写真2の右下には、花びらの中のめしべとおしべが現れています。
実をつけているヌスビトハギもありました(写真3)。花よりも実の方が、ひっつき虫として、よく知られていますね。マジックテープ(面ファスナー)と同じ仕組みで、ズボンや上着の袖にくっつくと、はがすのに苦労します。
ところで、ヌスビトハギの名前の由来をご存じでしょうか? 日本の植物学の父ともいわれる牧野富太郎博士によると(*2)、”昔の泥棒は足音を立てないように、足裏の外側だけを地面に着けて歩き、その時の足跡に似ている”からだそうです。試しに、足裏の外側だけを地面に着けて歩いてみました(写真4)。それなりに似ていますね。
千早本道をもう少し進むと、ヌスビトハギの仲間のフジカンゾウも咲いていました(写真5)。花びらの拡大を見ると、やはりマメ科の花らしい蝶型です。
フジカンゾウの花がらとヌスビトハギを並べてみました(写真6)。フジカンゾウは2倍ほど大きい(草丈も2倍位高い)。実は同じ形で、やはり2倍くらい大きい。ヌスビトハギの種に見慣れているので、かなり違和感があります。
同じ仲間(属)のヌスビトハギとフジカンゾウが、大きさなどを変えて進化し、同じ環境で暮らしているのは、なんとも興味深いです。ただ、このあたりでは、大きなフジカンゾウは小さなヌスビトハギよりずっと数が少ないです。
名前の由来について、もう一つ補足。フジカンゾウには、”ヌスビトノアシ”という別名があります。文字通り、”ぬすびとの足あと”に似ているという意味です。牧野富太郎博士がヌスビトハギの名前を、”ぬすびとの足あと”に由来すると推定したのは、ヌスビトハギによく似たフジカンゾウに”ヌスビトノアシ”という別名があったからだそうです(*2)。
最後に、みなさんよくご存じのひっつき虫、アレチヌスビトハギを紹介します。アレチヌスビトハギは北米原産の外来種です。花びらは蝶型で、大きさはヌスビトハギとフジカンゾウの間位ですが、実の山の数が3~6個あり形が違います(写真7)。ちょうど、小さなハチが花にやってきて、隠れていた、めしべがポコッと出てきました(写真7右下)。ヌスビトハギより、軽い力でめしべが出てくる感じです。アレチヌスビトハギは、空地や道ばたなど開けて日当たりのよい所で育ち、また、花の咲く時期が9月~10月でヌスビトハギより1か月位遅いので、真夏の山地に咲くヌスビトハギに比べて、目にする機会が多いのではないでしょうか。
8月から10月にかけて、府民の森を散策していると、いろいろなヌスビトハギの花や実を見かけると思います。”ぬすびとの足あと”を想像しならがら楽しんでみて下さい。もっとも、アレチヌスビトハギを”足あと”というには山の数が多すぎますね。
<ます 2022/08/18 改訂2022/09/08>
【補足説明】
*1 ヌスビトハギに似た花
ヌスビトハギには、ヤブハギ、ケヤブハギ、マルバヌスビトハギなど、よく似たものがあります。それぞれの中間的な形のものもあり、識別が難しいです。掲載した写真はヌスビトハギだと思いますが、もし、別の種類でないかと思われるようでしたら、ご指摘下さい。なお、フジカンゾウは、花の大きさがかなり違い、小葉が5から7枚と、ヌスビトハギの3枚とは違うので、識別は容易だと思います。
*2 ヌスビトハギの名前の由来
牧野富太郎博士のヌスビトハギ、並びに、フジカンゾウの別名については、「新分類 牧野日本植物図鑑、 北隆館、2017年」に記載されています。
一方、ヌスビトハギの由来については、”ぬすびとが気づかないうちにその種子が人に取り付く”という性質を述べたとの説もあります。(大橋広好、「朝日百科 植物の世界 4」、朝日新聞社、1997年)。