No.83 アサギマダラは8年に一度リョウブの木に群がる?

 6月の終わりに、金剛山のちはや園地へ行ったとき、渡りをする蝶 アサギマダラが数頭、終わりかけのウツギの花で蜜を吸っていました(写真1)。以前の記事”アサギマダラは秋のチョウ?”で紹介したように、7月の中旬 夏祭りの頃には、ちはや園地でアサギマダラがよく見られます。しかし、6月にアサギマダラを見たのは初めてでした。南の方から渡ってきたアサギマダラは*1、金剛山でこのまま夏を過ごすのかな?。

写真1 終わりかけのウツギの花で吸蜜するアサギマダラ(2022/6)
写真1 終わりかけのウツギの花で吸蜜するアサギマダラ(2022/6)

 記事を書いた2018年には、らくらくの路沿いのリョウブの木*2にたくさんのアサギマダラが集まって、花の蜜を吸っていました。ところが、それ以降、夏祭りの頃に、リョウブの木にアサギマダラが集まる姿は見られていません(写真2)。実は、2017年から2021年の間に、リョウブの木に群がる姿が見られたのは2018年だけでした。

 夏の頃、アサギマダラの活動に最適な温度は22~26℃で、19℃以下では動けなくなり、27℃以上になると日影で休む、との報告があります(参考文献2)。確かに、2020年は長雨続きで気温が19℃と低く、アサギマダラは見られませんでした。しかし、2019年は2018年と同じ25℃で、それ以外は21~23℃でした。

 また、アサギマダラは夏の間も移動する事が報告されています(参考文献1,2)。もしかすると、過ごしやすい所へ移動してしまったのかしれませんし、観察した日だけ別の場所に行っていたのかもしれません*3

 一方、リョウブの花について気になる事があります。能勢のはちみつを売っているお店で、はちみつの花の種類を選んでいた時、リョウブのはちみつが目に入りました。販売されていた養蜂家の方は「リョウブのはちみつは珍しい、毎年花を咲かせるけど、はちみつが採れるほどたくさん蜜を出すのは8年*4に一度だけ」と言ってました。

 もしかすると、2018年はその8年に一度の年だったのかな? 確かに、2018年、アサギマダラがリョウブの木に集まっていた時、いろんな虫たちがたくさん集まって花の蜜を吸ってました(写真3)。

写真3 リョウブの花で蜜を吸うたくさんの虫(2018)
写真3 リョウブの花で蜜を吸うたくさんの虫(2018)

 ブナの木は、5~7年に一度たくさん実をつける年(成り年)がある事が知られています(参考文献3,4)。草花(草本)と違って、木は何十年も生きます。何年かに一度、実を付けたり、蜜を出したり、その長い時間軸で、子孫を残すための戦略を持っているのかもしれませんね。

 今年の夏祭り、リョウブの木にアサギマダラが群がるかな?

<ます 2022/07/09>

【補足説明】

*1 春から初夏にかけてのアサギマダラの移動

 5月になると、九州本土から、四国、近畿、東海、北陸、関東まで移動してきます。5月下旬になると、びわ湖バレイでアサギマダラが見られるようになります。山上のヨツバヒヨドリの花で吸蜜したり、食草のイケマに卵も確認されています(参考文献1)。

 

*2 リョウブの木

 尾根など乾いた所に育ち、高さ8~10mになる高木。府民の森でも、たまに見かけます。花が少ない7~8月に、白い花を咲かせ、たくさんの虫が集まってきます。樹皮がはがれ落ちて、茶褐色で表面がすべすべになるので、目に付きやすいです。すべすべ肌で似た木としては、ナツツバキやサルスベリがあり、いずれも盛夏に花をつけますが、花を見れば見分けがつきます。

https://www.rinya.maff.go.jp/kinki/siga/mori-enjoy/okusimasyokubutu/ryoubu.html

*3 ちはや園地の近くのリョウブ

 金剛山のお隣の大和葛城山 山頂付近の自然研究路にはリョウブの木がたくさんあります。金剛山に比べると少し気温が高いです。

 また、ちはや園地のすぐ近く、ロープウエイ駅付近から下ったカタクリ尾根にもリョウブの木が集まっている所があります。

 

*4 リョウブの花が蜜を吹く間隔(養蜂家の方は、”蜜を吹く”と言うそうです)

 インターネットで調べて見てみると、5年に一度とか、8年に一度とか書かれている記事がいくつか出てきます。リョウブのwikiには5年に一度と書かれています。学術的な調査に基づく文献は見当たりませんでしたが、何年かに一度(例えば、5~8年に一度)蜜をたくさん出すことは間違いなさそうです。

 

【参考文献】

1.佐藤英治、アサギマダラ 海を渡る蝶の謎、山と渓谷社、2006年

・春から初夏にかけてのアサギマダラの移動については、p.50-51 新緑の頃に本州へ

夏の間の移動については、p.52 夏-高原に集う

 

2.栗田昌裕、謎の蝶アサギマダラはなぜ海を渡るのか?、PHP研究所、2013年

・夏の間のアサギマダラの活動に最適な温度については、p.79-80 天候や気象に敏感、p.160-161 行動パターンに影響を与える要因

夏の間の移動については、p.163-164 小さな旅は夏季にも起きている

 

3.黒松内町ブナセンター、ブナの基礎知識 結実の豊凶

https://bunacent.host.jp/bunadata.html

 

4.韓 慶民、森林講座 樹木のタネの成り年の不思議、国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所

https://www.ffpri.affrc.go.jp/tmk/event/documents/1115.pdf

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