3月下旬にくろんど園地を案内させて頂いた時に、Tさんが八ッ橋でアオモジの高い木を見つけました(写真1a,b)。まだ花が少ない早春に、淡く黄色い花を沢山つけて、小さな虫が集まっていました。葉と幹や枝の中(木部)はレモンのような香りがするらしいです(あいにく、葉が拡がる前で、香りを楽しむことはできませんでした)。
ところで、アオモジは、九州より南に分布するクスノキの仲間で(補足1)、本来、大阪では見ることができない樹木です。では、どうして八ッ橋にあるのでしょうか?
実は、アオモジは生駒山地の奈良側、平群町の近辺で多くみられます。研究によると、1960年代の後半頃から、生け花用などの目的で導入されたものが、大型の鳥によって食べられた実が散布され、野生化して生駒山系に拡がったと考えられています(参考文献1,2,3)。
アオモジの実は直径0.5cm位で秋に実り(写真2)、熟すと黒くなります。写真1の花の数からわかるように、多くの実を実らせます。また、いかにも、鳥が食べやすいような実の付き方をしています。実からはレモンの香りがするエッセンシャルオイルが取られます。
ただ、平群町からくろんど園地までは直線距離で15kmほどあります(図1)。空を飛ぶ鳥は、体を軽くするため、食べたものは短時間で外に出てしまいます。1回の飛行で種を運ぶには、15kmは遠いかな、そう思ってたら、ほしだ園地とむろいけ園地にもアオモジがあって、むろいけ園地にはアオモジがたくさん生えていると、Tさんが教えてくれました。
むろいけ園地へ行ってみると、案内所から湿生花園へ向かう道沿いに、黄色い花をつけたアオモジが15本位ありました(写真3)。高さ5m、直径10cm位の高い木も多く、樹齢は10年以上ありそうです。葉は、確かにレモンのような、さわやかな香りがします。アオモジは雌雄異株で、ここには雌株も雄株もあって(写真4a,b)、ここで生まれたらしい若い木も育っていました(補足2)。
むろいけ園地からくろんど園地の八ッ橋までは、直線距離で6km(図1)、これくらいであれば、カラスやヒヨドリが、実を食べて種を運んでくれるかもしれませんね(補足3)。
森の中にはいろんな種類の木がありますが、新しい種類の木が生えてきても、なかなか気づきません。見覚えのない花や実を目にすることがあったら、この森にこんな木があったかなあ? と調べてみると意外な発見があるかもしれません。
おわりに、八ツ橋のベンチの前に生えているビワの木(写真5)を紹介します。 誰かが昼ごはんに食べたのかな?
<ます 2022/04/15>
【補足説明】
補足1:アオモジの名前の由来
アオモジよりクロモジの名前を聞かれた事が多いと思います。クロモジは、黒ようじ(楊枝)の「くろ」に「もじ」をつけて「くろもじ」と称したことからとも、木の皮の斑点を文字に見立てたともいわれています。アオモジは、クロモジと同様の由来で、枝が青いことにちなんだと言われています。
クロモジもアオモジと同じクスノキの仲間で、早春に淡く黄色い花を咲かせます(付録写真1a,b)。和菓子に添えられる楊枝(ようじ)を見たことがある方も多いでしょう(付録写真2)。
補足2:むろいけ園地のアオモジ周辺の様子
むろいけ園地のアオモジが侵入した一帯は、コナラの雑木林でしたが、ナラ枯れによって枯れたコナラが伐採された後、府民のみなさんと一緒に植樹が行われ、コナラを中心とした雑木林の再生が図られています。パノラマ写真(付録写真3)では、丘の上で黄色い花を咲かせているのがアオモジ、手前の更地がコナラの伐採跡で、右手前に植樹された若木が見えます。
補足3:鳥による種子散布以外の可能性
八ツ橋にラクウショウやミズバショウを植栽した際に、運ばれてきた土にアオモジの種子が含まれていて、その種子が発芽して育った可能性も考えられます。また、八ッ橋のミズバショウの植栽の際(1978年)に、ミズバショウと同時期に花を咲かせるアオモジを植えた可能性もあるかもしれません。
【参考文献】
(1)森本範正, アオモジ生駒山系に野生化 植物分類,地理, 1990, 41 巻, 4-6 号, p. 201-202
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunruichiri/41/4-6/41_KJ00001078693/_pdf/-char/ja
(2)中村 彰宏, 近畿に野生化するアオモジの種子散布、発芽、実生の成長特性からみた個体群動態の解明, 科学研究費助成事業データベース
https://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI-PROJECT-14760107/147601072002jisseki/
(3)橋本啓史, 近畿地方における逸出種アオモジの種子散布者は誰か?
日本生態学会大会講演要旨集/第50回 つくば大会 (2003)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/esj/ESJ50/0/ESJ50_0_271_3/_article/-char/ja/