9月のおわり、ゲストティーチャーの下見でほしだ園地に行ったとき、ヌルデ *1の虫こぶ *2を見つけました(写真1)。あざやかな黄緑色がよく目立ち、うっすらと赤く色づきはじめています。人の耳の形に似ている?ので、ヌルデノミミフシという名前がつけられています。ところどころ、コンペイトウの角のようにふくらんでいます。
おそるおそる虫こぶを切って中を見てみると、ゴマつぶよりも小さなアブラムシ(ヌルデシロアブラムシ)がたくさんいました(写真2)。虫こぶの内側にはりついて、内側を食べているように見えます。
それから、2か月ほどたった11月のおわりに、虫こぶの様子を見てみました。ヌルデは葉を落とし、虫こぶは茶色がかった淡い灰色*3に変わっていて、シワシワに干(ひ)からびているようです(写真3)。穴が開いているところもあります。前に角のようにふくらんでいた場所のようです。
穴が開いた虫こぶ(写真4a)の中を見てみると、アブラムシは見あたりません(写真4b)。アブラムシが食べていた内側の部分もなくなっていて、虫こぶはかなり薄くなっていました。白い綿のようなものは、アブラムシの仲間がよく分泌するロウだと思います。白い部分を切り出して見ると、以前いたアブラムシの死がいのようなものが見えます(写真4c)。
このアブラムシ(ヌルデシロアブラムシ)は、少しややこしい、くらし方*4をしています(参考文献(1))。①新緑の頃に1匹のアブラムシがヌルデの葉に物質を注入して虫こぶを作ります。②夏から秋にかけて虫こぶの中で、はね(翅)のないアブラムシが繁殖をくりかえし、秋になるとはね(翅)がはえたアブラムシが産まれてきます。③虫こぶに穴が開くと、はね(翅)のはえたアブラムシが虫こぶを飛び出して、特定の種類のコケ(チョウチンゴケのなかま)に卵を産んで、幼虫で越冬するのです。
写真4aの虫こぶは、アブラムシが虫こぶを飛び出した後だったようです。近くの斜面にはいろんなコケが生えていましたが、どれがチョウチンゴケかよくわからず、アブラムシの卵をみつけることはできませんでした(写真5)。
実は、これで、ヌルデの虫こぶの不思議の話が終わるはずだったのですが・・・
せっかくなので、穴が開いていない虫こぶ(写真6a)の中も見てみました(写真6b)。おどろいたことに、はね(翅)がはえたアブラムシの死がいがたくさん(100匹位いそうです)見つかりました(写真6c)。少し考えれば、あたりまえなのですが、はね(翅)がはえたアブラムシが生まれても、虫こぶに穴が開かないと、外に出ることはできません。穴の切り口(写真4a)を見ると、小さなアブラムシがかじって開けたとは考えにくいです。穴が開いたところが、コンペイトウの角のようにふくらんでいた場所だったことからすると、虫こぶがシワシワに枯れて、ふくらんでいたところがさけて、穴が開いたと考えるのが自然なように思います。アブラムシが虫こぶの内側を食べた結果、虫こぶが薄くなって穴が開きやすくなっていることも影響しているかもしれません。
うまく、穴が開けば外に出て命をつなぐことができますが、穴が開かないと虫こぶの中で一生を終えてしまいます。11月のおわり、ヌルデに残っていた虫こぶには、ほとんど穴が開いていおらず、なんだか、せつない気持ちになりました。
ヌルデの虫こぶは、タンニンを多く含んでいて、古くから、お歯黒の材料や染料や薬として使われてきました。ヌルデの虫こぶを身近に使っていた、昔の人たちは、穴が開いてない虫こぶを使った時に、どんなことを感じたのでしょうね。
【補足説明】
*1 ヌルデ
ウルシ科の落葉樹で5~6m位の高さになります。伐採や倒木の跡にいち早く育つ先駆植物で、府民の森では、管理道沿いなどに普通に見られます。葉の軸によく(翼)がついていて見分けやすいです(写真1)。ヌルデの名は、かつて幹を傷つけて白い汁を塗料として使ったことに由来します。ウルシほどではないですが、葉や茎から出る樹液にかぶれることがありますので、ご注意ください。
*2 虫こぶ
植物が昆虫などの発した物質に反応して、”こぶ”のような異常な形に成長したもの。昆虫は虫こぶを、成長するまで身を守ったり、食料にしたりして利用します。植物にとっては、昆虫に寄生されたことになります。虫こぶの名前は、植物の名前 + 虫こぶができる場所 + 虫こぶの形 + フシ(虫こぶのことです)であらわされます。ヌルデノミミフシは、ヌルデ ノ+ミミ+フシです。府民の森では、コナラやクヌギ、クリの葉に虫こぶがよくみられます(付録写真1a~e)。
*3 空五倍子色(うつぶしいろ)
ヌルデの虫こぶは五倍子(ごばいし)と呼ばれ、古くから染料(喪服やお歯黒など)や薬として使われてきました。空五倍子(うつぶし)は、中がからっぽの虫こぶを意味し、空五倍子色は枯れたヌルデの虫こぶの色をさします。
*4 ヌルデシロアブラムシのくらし(生活環) (参考文献(1))
①5月頃、一匹のメスが、ヌルデの葉の葉脈に何らかの物質を注入すると、注入した部分がへこみ周囲がふくらんでメスをつつみこみ、初期の虫こぶができます。
②虫こぶの中のアブラムシは、メスが単独でメスの子を産むことを3~4世代(参考文献(2))くりかえします。この間、虫こぶは徐々に大きくなり、10月ころに最大の大きさになります。
③秋になると、はね(翅)を持つアブラムシが生まれて、穴が開いた虫こぶから飛び出して、チョウチンゴケのなかまに移動します。そこでメスが単独で、メスとオスを産んで、幼虫として冬を越します。
④春になると、メスとオスの幼虫は、成虫になって交尾して卵を産み、はね(翅)を持つアブラムシが、①のようにヌルデに虫こぶを作ります。
【参考文献】
(1)佐藤 雅彦, 平野 朋子
「虫こぶ」を形成する昆虫の生存戦略-ヌルデシロアブラムシが植物の花器官形成遺伝子を制御する仕組み 2020.7.6
https://academist-cf.com/journal/?p=13737
(2)高田 肇
ヌルデシロアブラムシの虫えいの発育と有翅虫の虫えいからの脱出, 日本応用動物昆虫学会誌 第35巻 第1号:71-76(1991)
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030472026.pdf
<ます 2021/11/29>