No.71 身近に見られるランの仲間、ネジバナ

■ いろんな所で見られるネジバナ

 6月後半から7月にかけて、府民の森では広場などで、住宅地や街中では、草刈りがされている公園や空地でネジバナを見かけます(写真1)。

写真1 ネジバナ(ちはや園地)
写真1 ネジバナ(ちはや園地)

■ ねじれ方はさまざま 

 ネジバナは、ピンクの小さい花がらせん状にねじれて連なり、バレリーナがクルクル回りながら踊っているようです。背丈が10~40cm位と低いのですが、1本見つけて目が慣れてくると、近くに何本か見つかることが多いです。右巻き・左巻きのねじれ方向や、まっすぐ・90度・180度など、ねじれる度合いもさまざまで(写真2)、見ているだけで楽しいです。

写真2 さまざまにれじれるネジバナ
写真2 さまざまにれじれるネジバナ

■ ネジバナはランの仲間

 ところで、ネジバナがランの仲間であることをご存知ですか?

府民の森で見られるシュンランや、お祝い事でよくみかけるコチョウランと同じランの仲間です(写真3)。ランの仲間の多くは、同じような花のつくりになっていて、虫に花粉を運んでもらったり、菌類と共生しながら育つといった共通の特徴をもっています。

写真3 ランの仲間(シュンランとコチョウラン)
写真3 ランの仲間(シュンランとコチョウラン)

■ 共通の特徴1:花のつくり

 ネジバナの花は、形が異なる3枚の花びらと3枚のガクでできていて左右対象になっています。おしべとめしべは一体化されて柱状(ずい柱)になり、たくさんの花粉が長さ1mm位の塊(かたまり)になっています(写真4)。シュンランやコチョウラン(写真3)と比べると、大きさと形が違い、下側の花びら(唇弁)が特徴的ですが、花のつくりは同じですね。

写真4 ネジバナの花のつくり
写真4 ネジバナの花のつくり

■ 共通の特徴2:虫に花粉を運んでもらう

 枯葉の柄を虫に見たてて、ネジバナの花の奥に入って蜜を吸ってもらいましょう(写真5a)。蜜を吸って出でくると柄の上側(虫の頭や背中と思ってね)に黄色い花粉塊が付いてます(写真5b)。花粉塊の下側には粘着性のある物質が付随していて、くっつくのです(写真5bの拡大で花粉塊の下に見える透明の舌のような部分)。そして、虫が別の花に入ってくと、今度は、頭や背中に付いていた花粉塊が、ずい柱の下の粘着物質にくっついて、たくさんの花粉が一度に送粉されるという仕組みになっています。

写真5 ネジバナの花粉塊が送粉されるようす
写真5 ネジバナの花粉塊が送粉されるようす

■  共通の特徴3:菌類の力を借りて育つ

 花粉が塊ごとずい柱に届けられると、塊の中の花粉がそれぞれ受精して、たくさんの小さな種(長さ0.3mmくらい)ができます。ランの仲間の種は小さく、根を出したあと、菌類の力を借りて成長し、菌類にも光合成で得た栄養を提供します。ランは菌類との共生によって、木や岩の上のように植物が生育しづらい環境に進出してきた植物です(参考文献 1)。草地に多くみられるネジバナは、きっと草地に多い種類の菌と共生しているのですね。

 ちなみに、ネジバナの根の黄色く見える部分には、菌類が活発に活動していて、顕微鏡を使うと、わりと簡単に観察できるようです(参考文献 2)。

■ ねじれの理由

 さて、そもそも、ネジバナは、なぜねじれているのでしょうか?

残念ながら、理由は分かっていませんが、興味深い研究があります(参考文献 3)。ネジバナのねじれの強弱と、虫(ハキリバチ)の止まりやすさや、実のできやすさの関係を調査した結果、”ねじれが弱いほど虫がよく止まるが、隣接する花での受粉(自家受粉)が多く近交弱勢を誘発し、結果として、世代交代を通して、ねじれる性質が維持されている可能性がある”ということが示されています。ネジバナがねじれ具合をばらつかせて、他家受粉と自家受粉のバランスを保っているとすれば、なかなか高度な技ですね。

■ どんな虫がやってくるのかな?

 街中の公園で、ネジバナにやってくる虫を観察してみました。モンシロチョウが止まって蜜を吸い始めました(写真6a)。でも、口を花に突っ込むだけでは花粉塊がくっつきません。ハナバチの仲間(ハキリバチ)も近くにやってきますが、ネジバナには止まらず、シロツメクサの花粉を集めてました(写真6b)。ネジバナの花の奥への開口は2mm位しかなく、ハキリバチ(体長 20-25mm)は、”蜜がありそうだけど小さすぎて入れないや”と思っているのかもしれません。虫の種類が多い、府民の森でじっくり観察してみたいです。

写真6 街中の公園でネジバナにやってきた虫たち
写真6 街中の公園でネジバナにやってきた虫たち

 府民の森でも、住宅地でも街中でも身近に見られるネジバナ、”ねじれ”と共に、いきものつながりも、楽しんでもらえれば幸いです。

【参考文献】

 

1) 遊川 知久, 共生菌がランの多様化をもたらした国立科学博物館 研究者紹介

https://www.kahaku.go.jp/research/researcher/my_research/botany/yukawa/index_vol4.html

 

2) 辻田 有紀, 菌根の世界 第4章 菌によりそうランの姿を追いかけて, 築地書館(2020年9月)

http://www.tsukiji-shokan.co.jp/mokuroku/ISBN978-4-8067-1606-8.html

 

3) 岩田 達則  花序構造の多様性と送粉者の行動,神戸大学人間発達環境学研究科/発達科学部・国際人間学部 生物多様性研究室

http://www2.kobe-u.ac.jp/~ushimaru/theme_inflo.htm

 

 

 <ます 2021/07/01>

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