■ ミチオシエ
府民の森のハイキング道を歩いていたら、道の先で何かがササッと動きました。近づいたら飛んでにげてしまいました。少し先で見つけて、ようやくカメラでとれました。色鮮やかでメタリックに輝くハンミョウ(ナミハンミョウ)*補足1です(写真1)。大きく写そうと近づくと、また先へ飛んでにげました。「ミチオシエ」の別名の通り、まるで道を案内してくれているようです。
■ 色鮮やかなハンター
ふたたび見つけました。しばらく様子を見てみます。長い足を使って素早く動いては止まり、また動きます。あっ、何かをつかまえたようです。大きなアゴでアリをはさんで、食べようとしています(写真2)。美しい姿に似合わず肉食のハンターなんですね。
ところで、ハンミョウがアリを狙うように、ハンミョウもムシヒキアブのような敵に狙われています。意外ですが、ハイキング道のように日が当たる砂地では、あまり目立ちません。敵に対して、カモフラージュの効果があると考えられています(参考文献1 p.71)。
■ 配偶行動
最初に見つけた所にもどってみると、2匹が体を重なり合わせていて、オスがアゴでメスをはさんでいます。配偶行動のようですが、交尾は行わず、すぐに別かれてしまいました(写真3)。
メスとオスのちがいがわかるように、顔のアップをのせてみました。アゴが白いのがオス、アゴの先が緑色のがメスです。正面から見ると、大きな目と大きなアゴがハンターらしいですね。
■ 越冬用の穴
道の山側は斜面で、少しくずれて、植物が生えていない裸地になってます。斜面には穴がいくつも開いてます。あれ?、ハンミョウが穴から後ろ向きに出てきて、向きを変えてから、また穴に入って行きました(動画1)。しばらく待ってみても、出てきません。この穴は、越冬に使っていた穴かもしれません。また休むのかな?
■ 裸地で暮らす
ハンミョウの成虫は、これから、交尾、産卵して2~3年の一生*補足2を終えます。そして、梅雨のころに幼虫が生まれてきます。幼虫は産卵された所で、地面にまん丸いたて穴をほって、アリを待ちかまえてエサにします。そのよく年の秋に、さなぎをへて、成虫になります。(幼虫のすがたを観察できたら、この記事にのせたいです)。
ハンミョウがいた場所は、ハイキング道ぞいの、植物が生えていない裸地でした。何年かして植物が育ってきたりすると、穴をほって裸地を移動するアリを待ちかまえたり、素早く動いて大きな目でアリをさがすハンミョウには、暮らしにくい環境になるかもしれません(参考文献2)。そうなったとしても、ハンミョウは暮らしやすい場所をみつけて、また道案内をしてくれたらいいなあと思ってしまいます。アリさんには気の毒ですが。
大阪府民の森では、みだりに、動物をつかまえたり、傷つけたりすることが禁止されています。ハンミョウを見つけても、取らない下さいね。
【補足解説】
*補足1 ハンミョウ(ナミハンミョウ)の形態・生態
ハンミョウはオサムシ科の昆虫で日本には25種が生息する。
この記事でハンミョウと呼んでいる昆虫は、学名を示す和名ではナミハンミョウ。ナミハンミョウは大型で色鮮やかですが、他のハンミョウは比較的小さくて目立たない色をしている。(参考文献1 はじめに)
成虫の体長は2cmほど、裸地(土の露出した地面)を、長い足で素早く歩き、大きな目と長い触覚で、アリのような昆虫などを探し、大きなアゴで捕食する。4~10月頃にみられるが、夏に世代交代を行う。冬は穴の中で越冬し、翌春に交尾・産卵し、生涯を終える。
幼虫の体長は2cmほど、細長い体と大きく鋭い大顎を持ち、固い裸地に円筒形の縦穴を掘り、平らな黒い頭部で穴に蓋をするようにして潜み、アリなどを待ち構えて捕食する。初夏に生まれ*補足2、3齢まで成長して越冬し、翌秋にさなぎを経て成虫になる。
ハンミョウは漢字で「斑猫」と書くが、これは、漢方薬として重宝されていた、全く別の種のツチハンミョウと取り違えられたのではないか。なお、現在の中国では「虎甲」と書かれていて、これは、英語の「tiger beetle」の直訳ではないかとのこと。(参考文献1 はじめに)
*補足2 秋生まれの幼虫
成虫の栄養状況が良い場合、成虫となった翌年の初夏ではなく、成虫となった年の秋生まれの幼虫も存在します。秋生まれの幼虫は2年後の秋に成虫になり、成虫は越冬して生涯を終えますので、3年生きることになります。なお、幼虫の発育速度には個性差が存在し、3,4年かけて成虫になるものも存在します。
地面に穴を掘って、裸地を移動するアリなどを待つという生態では、餌獲得が環境に大きく依存するので、このような耐性が発達したのだろうと考えられます。(参考文献1 p77-80,91-92)
【参考文献】
1)掘 道雄(編),環境Eco選書 14 日本のハンミョウ(北隆館)(2019),p.62-101 ナミハンミョウの生態
京都市の大学演習林に生息するナミハンミョウの個体群を8年間にわたり、幼虫と成虫の大部分を個体識別して追跡し、生活史、成長と発育、繁殖様式、や個体群の構造と動態などを明らかにした調査研究の報告。
ナミハンミョウの生態に興味をもたれた方はぜひご一読ください。
2)上田 哲行、掘 道雄,はくさん(石川県白山自然保護センター) 第25巻 第2号(1997)p.2-7 手取川のハンミョウ類
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/hakusan/publish/hakusan/documents/hakusan25-2.pdf
河川性のハンミョウ類の生息場所の調査、考察を通して、水がいきいきと流れる川本来の姿の必要性を説いています。
ます(2021/4/16)