先日、いこま山のなるかわ園地からの帰り道で、フユシャクのメスを見つけました(写真1)。フユシャク*1は冬にあらわれる蛾で、メスは、翅がなくなっていて、飛びません。
2ひきのフユシャクが道ぞいの柵にとまって、交尾しています。右がわの翅がないのがメスです。からだの長さは1cm位と小さいですが、茶色の柵に白っぽい体がめだって、見つけることができました。しばらく様子を見ていても、まったく動く気配がなく、その日は家に帰りました。
うれしくなって、ふたたびおとずれてみました。今度はオス2ひきとメス2ひきが、それぞれちがう柵にとまって休んでいました。
オス(写真2左)の翅には黒い点の模様がついています。前回とはちがう種類*2のようです。メス(写真2右)は前回とよくにていて、翅がありません*2。
フユシャクの顔をアップで見てみると(写真2)、オスにもメスにも、ストローをくるくるまいたような口(写真2 まんなか下)が見あたりません。フユシャクの成虫には口がなく、1~2週間の寿命を生きる間、エサを食べずにすごします*3。
では、飛ばないメスはオスとどうやって出会うのでしょうか?
種類によって決まっている気候や時間になると、メスは木に登ります。尾を上下に動かしながら、尾の毛の束を開いてフェロモンを出します。オスはくし形の触角(写真2では翅の下にかくれています)を出して、木の根もとをとびます。そして、メスが出すフェロモンの香りを探して、メスを見つけます。(さんこうぶんけん1)
翅のないメスは柵にとまったまま動かないので、死んでいるのかなと思って、メスをクヌギの落ち葉にそっとうつしてみました。しばらくすると、1ぴきが動き出しました。ちょっと目をはなすと、見失ってしまいそうです。フユシャクは、翅がなくても、すばやく動けそうです。(動画1)
フユシャクは、昔、地球全体が寒くなった時期に、冬にも活動できるように進化してきた、と考えられています。なぜ、翅や口が退化したのかは、まだよくわかっていませんが、フユシャク研究者の中島秀雄さんは、次のような考えをのべています。(さんこうぶんけん1)
「メスは卵をうむためにたくさんのエネルギーが必要です。しかし、寒い冬は、体からエネルギーをうばいます。少しでも、エネルギーを失わないように、メスは翅をなくました。また、冬にはエサになる、蜜を出す花や木がほとんどありません。たくさんのエネルギーを使ってエサを探しても、みつかるエサは少ないのです。それで、メスもオスも、エサを探して食べることをやめて、口をなくしました。」
フユシャクの多くは夜に活動しますが、今回みつけたように、昼でも交尾を行うことがあります。
近くの府民の森で、冬の虫さがしはいかがでしょうか。運よくフユシャクが見つかれば(さんこうぶんけん2に見つけ方が書かれています)、そのすがたや行動に、自然のふしぎを感じてもらえると思います。フユシャクが見つからなくても、冬を越す虫たちを楽しんでもらえると思います。(写真3)
では、3密にならないように気をつけて楽しんでください。
【補足】
*1 フユシャクとは
フユシャク(冬尺)は種の名前ではなくて、幼虫がしゃくとり虫になるシャクガ(尺蛾)のうち、冬に成虫としてあらわれて活動し、メスの翅が退化した蛾をさします。日本全国に35種類くらいいます。成虫は、幼虫のエサとなる広葉樹(コナラ、クヌギやサクラなど)などがある山地や里地に、11月ころから3月ころまで、種類におうじた時期にあられます。多くは夜行性で、夜に配偶行動を行いますが、日中でも見られることがあります。
*2 観察したフユシャクの種類
交尾していたのはウスモンフユシャク、べつべつにいたオスはクロテンフユシャクと思われます。べつべつにいたメスもクロテンフユシャクかもしれませんが、外見がにている種類がいて写真からは識別できません。ウスモンフユシャクもクロテンフユシャクも、メスの翅はなくなっていますが、フユシャクには小さな翅が残っている種類もいます。(さんこうぶんけん3)
*3 フユシャク以外で口が退化した蛾
春先にコナラの木でよく見かける黄緑色の繭を残すウスタビガや、同じなかまのヤママユガも、成虫には口がなく、エサを食べずに過ごします。
【さんこうぶんけん】
1)中島秀雄, "冬尺蛾 厳冬に生きる",築地書館(1986)
配偶行動は、3章 "フユシャクとの戦い" pp.84-95
進化の仮説は、7章 "なぜ寒さに強いのか" pp.177-214
2)川邊透, "冬に見られる不思議な蛾、フユシャクを探そう",
http://gogo.wildmind.jp/feed/howto/78
3)川邊透, "昆虫エクスプローラー フユシャク図鑑",
https://www.insects.jp/konbunfuyusyaku.htm
ます(2021/2/14)