先日、白旗池でリスがクルミを食べるところを観察したのと同じ日に、くろんど園地の管理道で小さなエビフライをたくさんみつけました(写真1)。みなさんはもうご存知ですよね、リスが松ぼっくり(松かさ)を食べた痕です。エビフライの近くに、アカマツの松ぼっくりから切り取られた鱗片(うろこのように見える松ぼっくりのかけら)も、ぽつぽつ散らばってました。
松ぼっくりは松の果実(球果)のようなもので、アカマツは4月頃に花を咲かせ、翌年の秋に松ぼっくりを実らせます。松ぼっくりの鱗片は花(雌花)の鱗片が成長したもので、おのおのの鱗片には、長さ10~15mm程度のはね(翼)が付いた、4~5mm程度の種が2つできます(写真2)。アカマツは、秋の乾いた空気のもと、晴れた日に松ぼっくりを開いて、何千もの小さな種を風に乗せて離れた所に飛ばします。
リスは種が飛んでしまう前に、秋に実った松ぼっくりの鱗片を切り取り、種を食べていたのですね。松ぼっくりに付いた種は春先まで残っているものもあるので、エサの状況によっては、リスは春先まで松ぼっくりを食べるそうです。アカマツはリスに種を食べられるだけで、クルミ(オニグルミ)と違って、Win-Winの関係にはなっていませんが、アカマツはたくさんの種を作ってその中から少しでも子孫が育てばいいという戦略をとっているので、少しくらい種を食べられても困らないのでしょう。
リスが松ぼっくりをかじっているところは見られなかったので、試しに松ぼっくりの鱗片を切ってみました。最初、カッターナイフで切り取ろうとしたのですが、硬くてきれいに切れません。結局、電気配線の切断に使うニッパーを持ち出して、鱗片を一枚一枚切り取りました(リスの歯も、きっとニッパーの刃先のようになってそうです)。でき上がった人工エビフライ(写真3(b))ですが、切り取り方が雑です。鱗片もリスの方が根元まで切り取られています(写真3(a))。松ぼっくりの種は鱗片の付け根についていて、鱗片を根元まで切らないと種が取れないためでしょう(写真3(a))。それで、エビフライの衣が細かくきれいな仕上がりになるのでしょうね。
ところで、リスが棲む森とはどんな森なんでしょうか?
本州中部の低地林の調査地では、リス(ニホンリス)は、マツやオニグルミをメインフード(主要な食べもの)とし、メインフードが不足する1月~6月には、新芽や鼻、初夏の果実や昆虫を食べていて(参考文献1)、アカマツ林や、オニグルミがありカヤ、モミ、カエデ、ヤマザクラなどを多様な樹が混在する針広混交林で過ごしていることが多く(参考文献2)、また、繁殖やねぐら用として、樹上に小枝を組んだ球状の巣を、アカマツ、スギ、スダジイなどの隠れやすい常緑樹に作ります。行動範囲はメスでは平均10ha、オスでは平均20ha位あり、樹上移動を行い、森林から開けた環境へ出てくるのを恐れるので、道路などによる森林の分断により生息が制限されるそうです(参考文献2)。
先日、エビフライを見つけた周辺の環境をさきほどの環境と比較してみますと、アカマツがコナラやソヨゴの混交林の尾根筋(写真4a)や駐車場などの林縁(写真4b)に固まって少しあり、森林整備を行っているヒノキの人工林にも繋がっていて約5ha程度になります(図1の赤点線内)。赤点線の北側には隣接する混交林が傍示峠まで続いていて、合計すると15ha程度で行動範囲に匹敵する大きさの森になります。また、管理道の上で高木が重なり合いアニマルパスウエイのようになっていて(写真4c)、リスは西側のアカマツ林と樹上移動しているかもしれません。
オニグルミのないくろんど園地では、リスはアカマツの松ぼっくりをメインフードとして食べ、アカマツやヒノキなどの常緑針葉樹に巣を作り、多様な樹々が混在する針広混交林を移動しながら暮らしているのでしょうか。生駒山系では1970年代にアカマツが松くい虫の被害を受けて数を減らしましたが、エビフライのつくられる、多様ないきものが暮せる森であり続けて欲しいですね。
(ます 2020/10/19)
<参考文献>
1)(財)日本生態系協会 ニホンリスのHSIモデル ver2.0 (2004)
2) 田村典子."リスの生態学".東京大学出版会 (2011)
p.94 4.1 ニホンリスの暮らし, p.159~161 6.1 森林の分断化