木々が色づき、冬鳥が訪れはじめた、くろんど園地からの帰り道、川沿いの道端に白い小さな花を見つけました。キッコウハグマ(亀甲白熊)です(写真1)。変わった名前ですが、葉っぱが亀の甲羅に似ていることと(写真1の左下の地面に近い葉)、白く開いた花びらが、ヤク(動物)のしっぽで作られた飾り(白熊:はぐま)に似ていることにちなんでいます。11月中頃になると、お花もお花に集まる虫たちも、ほとんど見かけませんので、ちょっと嬉しかったです。
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キッコウハグマは高さが10~30cmで、直径が1cm位の小さな花を咲かせます。左下の写真2には2つの花が写っていて、それぞれは1つの花(頭花)のように見えますが、実は3つの花(小花)が合体した構造になっています。それぞれの花(小花)には5枚の花びらとめしべ・おしべがあります。花びらの先がくるくる丸まっているのでわかりにくいですが、数えてみてくださいね。キッコウハグマのように、複数の花(頭花)が合体した構造を持つ花は、普通にあって、おなじみのタンポポやアザミなどのキクの仲間は全て頭花です。10月中頃に園地でよく見かけるコウヤボウキも頭花の構造をしています(右下 写真3)。こちらは7~15くらいの花(小花)が合体しています。写真2を肌色のめしべの数で数えてみると8個の小花からなっていました。
さて、キッコウハグマの花のつくりを詳しく見てみますと(写真4)、暗い赤紫色の部分がおしべで、先の肌色の部分が花粉のつまっているヤクです。おしべは花のつけ根では何本かの白い柱のような部分に分かれています。めしべは、はじめはおしべの内側に隠れていて、おしべのヤクが落ちる頃になると伸びてきて、くじらの潮吹きのような形になります(写真4)。これは、雄性先熟といって、花の中でめしべがおしべより遅れて成長することで、自分の花粉で受精してしまわないようにするしくみです。
ぽつぽつと咲いているキッコウハグマを眺めていると花に虫がとまっていました(左下 写真5)。ガガンボが蜜を吸っているようです。この時期、ハナアブがたまに飛んでますが、キッコウハグマは横向きに咲くので、飛ぶのが上手でないハナアブが蜜を吸ったり花粉を食べるのはむずかしそうです。ガガンボが花粉を運ぶ役割を果たしているのかもしれません。ちなみに、コウヤボウキでもガガンボが蜜を吸っているのを見かけますが、10月中ごろには、まだまだ虫が多く、ハナアブやホウジャクなどたくさんの虫が集まってきます(写真6:右下)。キッコウハグマやコウヤボウキの花びらの先がくるくると丸まっているのは、ガガンボが足をかけやすくするためだったら面白いなと思いましたが、これはわたしの妄想ですね。
キッコウハグマにはもう一つ受粉のためのしくみがあります。左上の写真5でガガンボがとまっている花の右上の方に先が細くなって紫色がかっているつぼみが見えます。これは閉鎖花だと思われます。閉鎖花は花を開いて虫に受粉してもらうのではなく、花を開かずに自分自身で確実に受粉するしくみです。虫が少ない時期に咲くスミレやホトケノザなど多くの種類でみられます。キッコウハグマは、半日陰で育ち、虫が少ない時期に花を咲かせるので、ガガンボに頼るだけではなく、閉鎖花も用意しているのかもしれません。一方、コウヤボウキには閉鎖花はありません。
写真7では、キッコウハグマが沢山の種を実らせます。一番上と真ん中に閉鎖花らしいものが見えます。まだまだ種を作るのでしょうね。
12月に入ると、大木に花を咲かせるサザンカやヤブツバキを除けば、ヒイラギやヤツデくらいしかお花を見かけません。日が短くなり、虫も少なくなった時期に清楚な花を咲かせるキッコウハグマは、くろんど園地の花暦の終盤を飾るのにふさわしい花ではないでしょうか。(2019/11/21 ます)