先日、久しぶりにくろんど園地を訪れたら、八ツ橋湿地帯の周辺にたくさんのヒヨドリバナが白い花を咲かせていて、いろんな虫で賑わっていました。蜜や花粉を食べるチョウ・ハナアブ・ハエや、花にきた虫を待ち構えるカマキリやクモなど小さな生態系ができているようです(写真1(a)~(f))。くろんど園地では、クリやリョウブなどど並んで、訪れる虫の数・種類が多い花の印象があります。
さんさくの路沿いのクヌギ植栽地でも、人の背丈と変わらない位にヒヨドリバナが大きく育ってました。ここは6月にササの下草刈りをした所で、少し嬉しくなりました(写真2)
ヒヨドリバナがここまで繁殖している印象がなかったので、調べてみると、「やや湿気のある日当たりがよい開けた所で育ち、変化(攪乱)のある環境で繁殖する。」と書かれていました。やはり、湿地帯の下草刈りが関係していそうです。
ところで、調べているとさらに興味深い事が書かれていました(文献1)。園地で見かける背丈の高いヒヨドリバナは無性生殖なんだそうです。つまり、虫は集まっているけど、ヒヨドリバナは受粉の有無に関係なく自ら種を作ってクローンを生み出して繁殖しているのです。
ヒヨドリバナには無性生殖する種類(オオヒヨドリバナ(注1))と、有性生殖する種類(例えば、キクバヒヨドリ(注1):葉の形がキクの葉と似ています)があります(写真3)。有性生殖する種類は背丈が低くて(50cm位)、種も少ないのですが、日陰の林縁などでひっそりと育ちます。無性生殖する種類は有性生殖する種類から派生的に発生し、背丈が高く(1m~2m位)、種をたくさん作り、日当たりでよく開けた、変化(攪乱)の多い環境に進出したと考えられています。
しかし、無性生殖するヒヨドリバナは、クローン繁殖なので適応力が小さく、ウイルスなどに感染しやすく、その同質性のために同じ地域内で広く感染してしまうという問題をかかえています。実は、同じキク科のセイヨウタンポポとヒメジョオン、また、ドクダミもヒヨドリバナと同じように種を作る無性生殖ですが、このような適応力のために、有性生殖から種を作る無性生殖へと進化する植物が多数派にならないと考えられています。
ヒヨドリバナは、写真4に示す通り、5つの筒状の花が集まったつくりになっていて、それぞれに、先端が2つに分かれて飛び出している めしべ と、目立たない黒いおしべがあり、たくさん種を作ります。
でも、無性生殖を行うなら、苦労して花を咲かせ、蜜や花粉を出して虫を集める必要はないように思います。もしかすると、ヒヨドリバナになんらかの変異が発生して、虫が運んだ花粉によって有性生殖して進化をひき起こすために、残された機能なのかもしれません。無性生殖で自ら種を作ることも”ふしぎ”ですが、少しの可能性のために多くの労力が必要な機能が残されていることもまた”ふしぎ”です。
ともかく、秋の初め、花の少ない時期に多くの花を咲かせるヒヨドリバナのおかげて、多くの虫が生育し、その虫を食べるいきもので小さな生態系が育まれていて、下草刈りがそれを間接的に助けているらしいという、”つながり”はなんとも興味深いです。
今年は残暑が続いて遅れてますが、園地のヒヨドリバナにアサギマダラ(写真5)がたくさんやってくる日を楽しみにしてます。(2019/10/01 ます)
文献1) 渡辺邦秋/常見直史,植物進化における性の役割 : ヒヨドリバナにおける有性型と無性型の生態,植物の自然史:多様性の進化学 4章 p56~71(北海道大学図書刊行会),1994/1/25
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/infolib/meta_pub/G0000003kernel_90003416 (神戸大学のデジタルアーカイブ 表の一番上の行のpdfアイコンを押すとダウンロードできます。)
注1) オオヒヨドリバナは、ヒヨドリバナを区別するための便宜上の名称です。また、有性生殖する種類には、キクバヒヨドリのように葉が分裂しないものもあります。
注2)写真3のキクバヒヨドリは、六甲山系で見つけたもので、外見と葉の裏の腺点で判断しましたが、ヒヨドリバナには派生が多いので誤りの可能性があります。キクのような葉の形と、大きさのイメージをつかむための写真と思って頂けるとありがたいです。