5月から7月にかけて、金剛山の尾根筋を登っていると、日当たりの悪い林床に、ギンリョウソウが集まって花を咲かせている姿を目にすることがあります(写真1)。ムーミンに出てくるニョロニョロのような謎多い姿につい見とれてしまいます。
斜面の下からのぞき込んでみると、10cmほどの真っ白い茎に一輪の花を下向きにつけ、鱗のように茎に張り付いている葉やガク(萼)が透けて見えます(下左:写真2)。その姿を白銀色の竜に見立ててギンリョウソウ(銀竜草)と名付けられています。ギンリョウソウは2か月もすると枯れて地上から姿を消しますが、うまく受粉できると鬼太郎の目玉おやじのような実をつけ(下右:写真3)、とても小さい種を作ります。
別の場所の群集で、たまたま茎が折れた花があったので、花びらをめくらせてもらってアップで撮ってみました(写真4)、宇宙戦艦ヤマトの波動砲が出てきそうです。青紫色のめしべをクリーム色のやく(葯)がついた10本のおしべが囲んでいます。全身真っ白のギンリョウソウですが、めしべとおしべの、花の外側から見える部分だけは色がついています。また、めしべの先端(柱頭)は湿っているのか少してかっていますし、花びらの内側やおしべには毛が沢山生えています。昆虫を呼び寄せて花粉をつけてもらうための工夫なのでしょうか。(*1)
(*1) 日当たりの悪い林床で送粉や種子散布がどのように行われるかは興味のあるところです。例えば、神戸大学 末次健司先生のHPに先端の研究内容が紹介されています。ご参考下さい。https://sites.google.com/site/suetsugujp/research_general
さて、ギンリョウソウが真っ白なのは、日当たりの悪い林床でも暮らしていけるように、光合成をやめて葉緑素を持っていないからです。では、光合成をせずにどうやって栄養を得ているのでしょうか? ギンリョウソウはベニタケ類のキノコなど菌類の菌糸を消化して栄養を吸収しているのです。このような植物を菌従属栄養植物といいます。
ところで、その菌類は、地中の窒素やリンを吸収して針葉樹や広葉樹に与え、樹木から光合成の産物を得るという、樹木との共生関係を持っています。つまり、樹木と菌類とギンリョウソウが地中でつなっがていて、ギンリョウソウは間接的に樹木から栄養を得ているのです(図1)。
秋に、ギンリョウソウを見たのと同じ尾根筋で、珍しく、ギンリョウソウと外見がよく似たギンリョウソウモドキを見たことがあります。(枯れかかっているので見にくいですが(下左:写真5)、めしべの色が黄褐色で、花びらの縁が滑らかでないところがギンリョウソウと違います。)ギンリョウソウモドキから少し離れたところに、ドクベニタケと思われるキノコ(下右:写真6)も姿を見せていました。このあたりには、地中にベニタケ類の菌類が広く生育していて、樹木とギンリョウソウとギンリョウソウモドキとをつなぐネットワークが作られているのかもしれません。外見からは関係がなさそうな生きもの同士がつながっているとは、生きものの世界は複雑で面白いですね。
大阪府民の森では、金剛山や生駒山でギンリョウソウに出会うことができます。ハイキングで暗い林床に白い植物を見つけたときには、地中のつながりを想像しながら、その謎多き姿を楽しんでみてください。(2019/6/7 ます)
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