春の金剛山では、フクジュソウに始まって、セリバオウレン、セツブンソウ、ミスミソウ、サイゴクサバノオ、キクザキイチゲ、イチリンソウ、ニリンソウなど、キンポウゲ科の小さな花が次々に咲いて、山歩きを楽しませてくれます。
この中で、セツブンソウ(写真1)とサイゴクサバノオ(写真2)は、白・黄・紫の色の調和と可愛らしい形で人気がありますが、少し変わった花のつくりになっています。どの部分かわかりますか?
実は、白い花びら(花弁)のように見えるのはガク(萼)で、黄色いおしべのように見える部分が、退化(注)した花びらです。
(注)退化とは、特定の器官や全体が次第に縮小したりなくなったりする事で、進化のある側面を意味します。退化は進化の対義語でも、優劣を意味する言葉でもありません。
セツブンソウは、「節分」の頃に咲くことにちなんで名づけられ、茎の高さが10~30cm、花が2cmくらいの小さな多年草です。金剛山ちはや園地では3月の中旬頃に咲きます。花を裏側から見てみると(下左:写真3)、白い花びらのように見えるのはやはりガクです。花の部分を拡大してみると(下右:写真4)、真ん中にくすんだ桃色のめしべが数本あって、淡い紫色のやく(葯)を持ったおしべに囲まれています。黄色い部分に注目してみると(赤い点線部分)、消防署の地図記号になっている「さすまた」のように、2つの黄色い部分がつながって1本の柱で支えられています。この少しくぼんだ結合部分から蜜を出しています。
サイゴクサバノオは、実が花の柄を中心に2つに分かれた形になり、それがサバのしっぽ(下左:写真5)に似ていることにちなんで名づけられ、茎の高さが10~20cm、1cmに満たない小さな花を下向きにつける多年草です。金剛山の谷筋では4月頃に咲きます。花を裏側から見てみると白い花びらのように見えるのはやはりガクで(下中:写真6)、青紫のすじ模様(条)が入っています。花の部分を拡大してみると(下右:写真7)、真ん中にめしべとおしべが集まっています。蜜を出すお皿のような黄色い部分が1本の柱とつながっていて、ヘッドホンの耳当てのように、柱の先で花の内側に折り返されたようになっています(赤い点線部分)。
多くの花(双子葉植物)では、花びらとガクが、おしべやめしべの保護と、花粉を運んでくれる昆虫を誘う役割りを果たしますが、セツブンソウとサイゴクサバノオでは、少なくとも保護はガクに任せて、花びらは蜜を出す器官に退化しています。小さな花だとガクだけで保護できるので、花びらを作るためのエネルギーを省いたのでしょうか。一方、黄色い部分は、昆虫に目立ちそうですし、蜜を吸いに来た昆虫がおしべ、めしべに触れるように、おしべ、めしべの近くに配置されていますので、昆虫を誘う役割は残しているのかもしれません。
ところで、同じキンポウゲ科のイチリンソウやニリンソウでも、花びらが退化してガクに保護を任せていますが、セツブンソウのような蜜を出す花びらはありません(写真8)。金剛山では群生している姿がいくつかの場所でみられますが、セツブンソウのような方法より、よい繁殖の方法があるのかもしれません。
植物が生きていくための戦略は本当に不思議ですが、その結果、花の色や形が山歩きの人の目も楽しませてくれるとは、これまた不思議ですね。
(ます 2019/4/14)