2月初めのイベントの際に、まだ雪が残る地面からつぼみをのぞかせるフクジュソウ(福寿草)を見つけて以来、寒い中でどうやってやって開花して受粉するのだろうということが気になっていたので、開花の様子を金剛山ちはや園地で観察してきました。
フクジュソウは、春の一番最初に3~4cm位の黄色い花を咲かせ、周りの樹々に葉が生い茂る晩春には地上から姿を消す「春の妖精」で、春を告げる花の代表であること加えて「福を招く」というおめでたい名前からも人気のある植物です。
2/3にはつぼみだったのが、2/21には花が開きかける状態になり、3/9には満開になっていました。(写真1)
フクジュソウは陽が差して気温が上がってくると、花びらを開きはじめ、太陽の動きを追うように花の向きを変えていき、気温が下がると花びらを閉じます。写真2は開花と太陽を追いかけるの様子を撮影したもので、3分の間隔を開けて2時間ほど撮影したものをコマ送りで再生しています。(ファイル容量削減のため、途中雲が出て陰ってきた時間帯を再生から省いていますので一定間隔にはなっていません。)
花が開くとパラボラアンテナのような形になって、太陽に光を花の内部に集めます。花の中心のめしべあたりの温度を熱電対温度計でピンポイントに測ってみると17℃~19℃位ありました。この時の気温が12℃位だったので、5~7℃位高くなっていました。写真3はその時の花の周りの温度分布を示すイメージです。花の部分が黄色くなっているのは温度が高い事を示してます。(この測定には、面的な広がりを調べる際に便利な赤外線放射温度計を使っていますが、太陽光や地面などの影響が補正できておらず正確な温度を示せていません。あくまでイメージとしてとらえてください。ちなみに赤いところは枯葉に直射日光が当たっているところです。)
ところで、花を開閉したり向きを変えたりするような労力を使ってまで、花の中の温度を高める理由は何なんでしょうか? 研究によると、花粉の発芽や花粉管の伸長、種子の成長促進といったフクジュソウ自身の保護、成長促進のためと、花粉を運んくれる昆虫に来てもらえるようにするためと考えられています。まだまだ寒い環境下で、花を成長させて結実し、子孫を残すための大切な仕組みなんですね。
開花と太陽を追いかけるの様子の撮影中は手持ぶさたなので、フクジュソウを訪れる昆虫を目が届く範囲で観察してみました。約2時間の間にハナアブの仲間(写真4)が1回とハエの仲間が4回訪れて花粉を舐めていました。いずれも体には花粉が付着していてフクジュソウの受粉に貢献してくれてそうです。ちなみに、フクジュソウは蜜を出しません。まだ花の蜜を吸うミツバチの少ない時期なので、花粉を食べるハナアブやハエに託したのかもしれません。
また、フクジュソウには体長が3mm位の小さなハエが沢山(10株に1匹位のイメージ)います(写真5)。このハエは20日ほど前の2/21頃には既に花の中にいて動かずじっとしてましたが、3/9には花びらに止まっている姿が多く見られ、花びらの中で交尾する場面も度々見られました。数が多く花の内部を動いているので、受粉の役にたっているかもしれませんが貢献の度合いはよくわかりません。一方、ハエにとっては風雨や寒さをしのいだり交配相手を探したりと、フクジュソウを住み家としているようにも見えます。
フクジュソウの後にはカタクリと春先の観察が続きますが、フクジュソウもカタクリと同じくアリの協力を得て種を散布します(正確には、果実の皮にエライオソームが含まれていてアリを誘います)。フクジュソウが無事結実できたこととあわせてアリの運搬が見れたらいいなと今から楽しみにしています。(2019/3/12 ます)
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