台風被害で休園となっていた府民の森が開園されたので、久しぶりにむろいけ園地を散策してきました。湿生花園では開花間近のミゾソバに交じってツリフネソウがたくさん咲いていました。
ツリフネソウは、山地のやや湿った所に生育し、大阪の里山では9~10月頃に、名前の由来となった「帆かけ船を釣り下げたような形」で奥行が3~5cm位の赤紫色の花を咲かせます。花を吊り下げている茎から前の部分が花びらで、下側左右に2枚、側面に2枚、上側に1枚の合計5枚で構成されています。上側の花びらの下に見えている白い棒状のものがおしべとめしべで、めしべは最初おしべに隠れていて、時間が経つと突き出てくることで自家受粉を防いでいます。花の茎から後ろの部分は花びらではなく”がく(萼)”が変化したもので”きょ(距)”といいます。奥に行くほど空間が狭くなって最後はクルクルと渦巻状になっています(写真1)。
あたりにはアブやハエの仲間が羽音をたたて飛び交っていましたが、ツリフネソウの花には入っていきません。しばらくすると、マルハナバチ(トラマルハナバチ)がやってきました。ツリフネソウの花に出入りしながら蜜を吸っているようです(写真2)。ツリフネソウは”きょ”の渦巻状の所から蜜を出しているので、マルハナバチは頭から突っ込んで入って長い口(写真2左下参照)を伸ばしてようやく蜜にたどり着けるのです。このとき、花の空間上部にあるおしべとめしべに、マルハナバチの頭や背中がこすりつけられて、花粉を運んでもらうのです。また、下側の花びらはマルハナバチが花に出入りする際の足場にもなっています。そのため、花びらには黒いしみのようなキズができています(写真2の右側の花)。
マルハナバチがツリフネソウから出てくるところを簡易動画にしてみました(動画1)。ツリフネソウの花の空間はマルハナバチが入れる大きさになっているのですが、”きょ”の奥に行くほど狭くなっているので、マルハナバチは後ずさりして出てきています。ちなみに、リンドウのように花の空間が広い場合は頭から入っても中で方向転換して頭から出てきています(写真3 別の山で観察)。マルハナバチは下側の花びらを足場に頭を上にしてツリフネソウに入って、蜜を吸ってから、そのまま頭を上にしたまま後ずさりして出てくるので、蜜を吸う時や出入りするときに、マルハナバチの頭や背中に確実に花粉がつくようになっているのです。このように、ツリフネソウはマルハナバチを送粉のパートナーとして、花の形や大きさを最適に進化させてきたのですね。
動画1と写真3
ところで、ツリフネソウには蜜を求めて他の昆虫もやってきます。スズメガの仲間のホシホウジャクは、ツリフネソウの花の奥行と同じくらいはありそうな長い長い口を器用につかって、奥まった”きょ”から蜜を吸いだします。さすがに頭を花に突っ込まないととどかないようですが、それでもおしべが頭に当たるところまでは入っていないようで、花粉をうまく運んでもらえそうにないです(写真4)。
写真4
また、クマバチは大きくて口も短いので、”きょ”の中に入って蜜を吸うことはできませんが、強いアゴを使ってツリフネソウにしがみついて”きょ”のあたりをかみ切って蜜を吸います。この日はクマバチは遠くのアザミの吸蜜に必死でツリフネソウにはやってきませんでしたが、ツリフネソウにつかまった時の足あとと噛んだあととと思われる箇所がある花びらが見つかりました(写真5)。ツリフネソウにとっては花粉を運んでもらえないのに蜜を提供するだけの、くたびれもうけですね。
研究によると、世界のツリフネソウの仲間は、その土地土地毎で送粉に最適なパートナーを選んで多様化していて、スズメガを送粉パートナーとして”きょ”を進化させた種類もあるそうです。自然の力ってすごいですね。
むろいけ園地のツリフネソウはもうピークを過ぎていますが、一面のミゾソバやサクラタデも咲きだしてましたので、湿生花園でのんびりと過ごされてみてはいかがでしょうか。(2018/10/26 ます)