秋に森林整備で下草刈りをしたり、自然観察で野歩きをすると衣服にたくさんのひっつき虫が付いてきます。身近なところではイノコズチやアレチヌスビトハギ、森林整備の森ではササグサがよく引っ付きます。
付くと取るのに厄介なひっつき虫、さてどのようにして衣服に付くのでしょうか? その仕組みを調べてみましたのでご覧ください。
1. イノコヅチ
写真1はイノコヅチの果穂(かすい)です。実は長さ数ミリで写真2のように茎の周りに下向きに付き、実の基部には2本の棘(トゲ)のようなものが出ています。
一方、引っ付く衣服の方ははどうなっているのでしょうか?
服の生地は一本の繊維を複数本撚(よ)って糸にし、それを縦糸と横糸にして織られています。
写真3はシャツの表面を写したものですが、無数の織目や糸の隙間があります。ここにイノコヅチが触れると、前述のトゲが生地の隙間に刺さって実が引っかかる(引っ付く)と言う訳です。
2. アレチヌスビトハギ
写真4はアレチヌスビトハギの花です。花が終わると写真5のような3~4個の豆が入った鞘(さや)状の実をつけますが、表面を拡大すると写真6のように鞘一面に毛が生えていてその先端は鈎針(かぎばり)のように曲がっているのが分かります。
この無数の鈎針を持ったアレチヌスビトハギの鞘が衣服に触れると、鈎針は容易に繊維に引っかかり(引っ付き)ますが、鞘は服に触れると引っぱられて一個一個に離れバラバラに引っ付きます。
3. ササグサ
写真8はササグサです。実は穂先に横向きに付き、先端にはイネ科特有の芒(※のぎ)が見られます。写真9参照。
※芒(のぎ)はイネ科の実の先端につく細い突起物のことを言います。
写真9は芒(のぎ)を拡大してみたもので、先端は尖っていて全体に細かい棘があります。
ササグサの芒(のぎ)は衣服に当たると銛(もり)のような形をしているので繊維の隙間に簡単に突き刺さります。一度突き刺さると棘があるので中々抜けません。写真11参照。
4. オナモミ
オナモミは大型のひっつき虫です。実全体に鈎針が付いています。
衣服に付く原理はヌスビトハギと同じです。
引っ付き虫の戦略
ひっつき虫が子孫を残す作戦は、自らは移動できないので他の動物に引っ付いて種を遠くに運んでもらい繁殖することです。府民の森にいるイノシシやタヌキは格好の運び屋さんになっているかもしれません。ひっつき虫は運び屋の動物が身震いをしたり、何かに体をこすりつけたりすると、そこで地上に落ち運が良ければ発芽することができます。
マジックテープ
マジックテープがひっつき虫の特性を使ったものというのはよく知られています。最後にマジックテープがどのように作られているのか見てみましょう。
写真14は衣服側に相当する面です。拡大して見ると丸い輪っかがたくさん並んでいます。一方写真15はひっつき虫の側です。一見すると輪っかが並んでいるように見えますが、よく見ると輪っかの一つ一つは途中で切れており、ひっつき虫の鈎針と同じようになっています。
もうお分かりのように、マジックテープは衣服側の輪っかにひっつき虫の鈎針が引っかかるようになっているのです。自然の理屈をうまく使ったことに脱帽です。
2024/2/14 (た)