No.120 ツチグリすごいぜ!

 

 皆さん、ツチグリをご存知でしょうか。

 特徴のある形をしていますで、山道を歩いていると目にとまることがあると思います。

 (写真1)ツチグリ観察中
 (写真1)ツチグリ観察中

 私もハイキング等のイベントで、ビジターさんに時々紹介することがあります。(写真1)

 

 そこで、ツチグリの生態について、改めてじっくり観察して検証してみました。

 

(写真2)ツチグリ       
(写真2)ツチグリ       

▶ツチグリって何?             
 私も初めて見たときは、「何だこれ!」と思いました。そして、これは「ツチグリ」と言う“きのこ”だと聞いてビックリ。“きのこ”なのに“栗”ってどういうことかと思いましたが、確かに見た目は栗のイガが開いたようにも見えますね。(写真2)

 しかし、普通のきのこの形(傘があってその下に柄がある形)と違って、何とも奇妙な形をしています。ヒトデのようにも見えますし、タコのようにも見えます。

 

▶名前の由来は?
 諸説あるようですが、ツチグリは「土栗」と書き、クリのようなコロコロとした形からそう呼ばれてるそうです。
 一方で、外皮が柿のへたに似ていることから、「土柿」とかいて「ツチガキ」と呼ばれることもあるそうです。

 

▶外皮が開閉する?
 図鑑等で調べると、下記のように書かれています。
 「ツチグリは林内の斜面に菌糸から菌子束を作り、地中に幼菌を形成します。幼菌は黒褐色で扁平球形の硬い外皮に包まれていて、内部は白色。やがて外皮が6~10片に割れて開きだし、その開く力で地中から地表に出てきます。そして、ツチグリの外皮が開くと、徐々に外皮の内側にに網目模様が出るようになります」。
 そして、なんとこの外皮「乾いた日には閉じ、湿った日には開く」というのです!
そこで、本当かどうか検証してみました。

 

(写真3)ツチグリの外皮が閉じた状態 
(写真3)ツチグリの外皮が閉じた状態 

検証① 外皮は開閉するのか
 数日間室内に放置し乾燥して外皮が閉じたツチグリ(写真3)に、霧吹きで何度か水を吹きかけてみました。(動画1)

 

 また逆に、外皮が開いた状態のツチグリを放置して観察しました。(動画2)

(動画1)※時間を短縮して撮影しています。

実際には約3時間ほどで、ほぼ開ききりました。

(動画2)※時間を短縮して撮影しています。

実際には5時間ほどで完全に外皮が完全に閉じました。

(写真4)ホコリタケ       
(写真4)ホコリタケ       

▶雨粒を利用して胞子を飛ばす
 成長したツチグリの内皮の内部にはたくさんの胞子が詰まっています。内皮の真ん中には穴が開いていて、湿った日、つまり雨の日に外皮が開いた状態で内皮に雨粒が落ちると、その衝撃で内皮が太鼓のように振動し、穴から胞子を吹き出します。

 同じ腹菌類のホコリタケ(写真4)も同じような方法で胞子を飛ばしますよね。

 

検証② 雨粒で胞子を飛ばすのか
 外皮が開いたツチグリに、上から水滴を落としてみました。(動画3)
勢いよく胞子が噴き出す様子が確認できました。

(動画3)

▶ツチグリは移動する?
 何とツチグリはきのこなのに移動するらしいのです。
 先程、「乾いた日には外皮を閉じる」と書きましたが、天気が良く乾燥した日には外皮を閉じて丸くなって風に吹かれて転がって移動し、雨で湿度が高い日には新しい場所で外皮を広げて胞子を散布するというのです。

 

検証③ 風に吹かれて転がるのか
少し角度をつけた板の上に置き、うちわで扇いでみました。(動画4)

(動画4)

(写真5)    
(写真5)    

 重さを計ると4gでした。(写真5)

 平らな地面では、うちわで扇ぐ程度の風ではあまりうまく転がりませんが、斜面では容易に転がることが確認できました。

 そういえばツチグリは斜面で見つけることが多いような気がします。おそらく山の強風の中では、かなり遠くまで転がっていくのではないでしょうか。転がって登山道や獣道に移動することで、雨粒だけでなく人間や動物に踏まれたり、どんぐりの落下の直撃を受けて胞子を飛ばすことも考えられますね。

▶学名は「星型の湿度計」
 ツチグリの学名「Astraeus hygrometricus」の“Astraeus”はギリシャ神話の星空の神で、“hygrometricus”は、湿度計を意味する“hygrometer”に由来しており、ツチグリは「星形の湿度計」や「きのこの晴雨計」とも呼ばれているそうです。
 湿度の違いによって外皮を開閉することからも、うなずけますよね。

 

▶ツチグリは植物と共生していきている
 ツチグリは植物と共生関係を結んでいる菌類(菌根菌)です。多くの植物は、根が菌類の菌糸とつながっていて、植物はつながった菌糸を通じて菌類が作ったミネラルを受け取り、その代わりに植物は光合成でつくった炭水化物を菌類に渡しています。お互いがいないと健全に成長できないのです。
 ツチグリはマツ科やブナ科やカバノキ科などの樹木と共生しているそうです。

 

▶食べられるのか?
 ツチグリは幼菌時には食用に用いることもできますが、成長した状態では食用に向かないとされています。
 九州や東北の一部では「まめだんご」「ままだんご」「けーころ」「ころべ」などと呼ばれ、季節の味として食卓へ上り、中には、マツタケ並みに珍重している地域もあるそうです。
 「幼菌の外皮をよく洗ってから、炊き込みご飯や串揚げにすると中身がクリーミーで美味しく食べられる。味噌汁の具や、佃煮などにされることが多い」。などと紹介されています。

 また、東南アジアのタイでは塩付けツチグリの缶詰が売られているそうです。どちらかというと、おいしいと言うより珍味という感じかと思いますが、味については検証していません。
 食べてみたい方は、ツチグリを見つけた場所で地面を掘ってみると、幼菌が見つかるかもしれませんよ。ただし、食べる際はあくまでも自己責任でお願いします。

 いかがでしたか。幼菌の時は土の中で樹木と共生し、成長すると地上に出てきて外皮を開き、雨の日に胞子を飛ばし、乾燥すると再び外皮を閉じて風に吹かれて移動し、移動した先で再び外皮を開き胞子を飛ばす。すごい生存戦略ですよね。(2024/1/22 ogi)

参考までに、私が調べた関連サイトを掲載しておきます。
興味のある方はアクセスしてみてください。


●動画
NHK ミクロワールド 

※ツチグリの外皮の仕組みやきのこの生態がよくわかります。(おすすめ)


ツチグリの探究(動画1)


ツチグリの探究(動画2)


ツチグリの探究(動画3)


胞子を吹き出すところ(you tube)


●全般
ツチグリ外皮の開閉 〔関西菌類談話会会報 No. 34 2017 年 5 月 P.16〕

「ツチグリの探究(1)」〔「日々の理科」(第 2249 号) 2020,-9,-8〕

「ツチグリの探究(2)〔「日々の理科」(第 2250 号) 2020,-9,-9〕

「ツチグリの探究(3)」〔「日々の理科」(第 2251 号) 2020,-9,10〕

「ツチグリの探究(4)」〔「日々の理科」(第 2252 号) 2020,-9,11〕

ツチグリの実験 〔「日々の理科」(第 84 号) 2014 (H26),-9,11〕


●共生
キノコと森の深~い関係 〔東京都レンジャーNews No. 155 2017年11月号〕

●ツチグリを食べる
アンチグローバル食=まめだんご

福島きのこの会~変わったきのこ、珍しいきのこの紹介~

ツチグリの蒸し物カマンベール風

「蹴転(けーころ)(=ツチグリの幼菌)を食べる」

 

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