カシワは柏餅を包む葉としてよく知られていますが、カシワの木は中国大陸の北東部や、日本では北海道や東北など寒い地方に多く見られます。府民の森ではカシワは自生していません。写真1は、北海道を旅行した時に写したカシワの葉です。カシワの葉は大きいことや抗菌物質が含まれているので柏餅を包むのに使われるようになりました。
又、カシワは冬になって枯れても葉が落ちずに残るので北海道では農地の防風林として、又塩害にも強く海岸の防風林としても用いられています。
余談ですが関西以西では鶏肉のことをカシワと呼びますが、これは地鶏の羽色がカシワの枯れた色に似ているところからそう呼ぶようになったそうです。
写真1 カシワの葉と防風林(2010/7/29 北海道)
さてカシワの名の由来ですが、〇〇ガシワと呼ばれる木が多くあることにお気づきでしょうか? 身近なところではアカメガシワ、ナラガシワ、コノテガシワなどがあります。この内ナラガシワ(写真2)はカシワと同じ楢(ナラ)の仲間で葉もよく似ていています。しかしアカメガシワ(写真3)とコノテガシワ(写真4)はカシワとは全く別種で、葉の形もカシワとは異なっています。
そんなものに何故〇〇カシワと紛らわしい名がついたのでしょうか?
写真2 ナラガシワ (なるかわ園地)
写真3 アカメガシワ
写真4 コノテガシワ
2023年のNHKの朝ドラ「らんまん」で牧野富太郎がモデルになりましたが、富太郎の著書で「随筆草木志」があります。その中にカシワの話がありましたので紹介したいと思います。
富太郎によるとカシワの語源は、炊ぎ葉(かしぎば=カシハ--> カシワ)
-- 炊ぐとは食べ物を載せたり蒸したりするという意味で、その用途に使用する葉-- に由来するとしています。
その昔、食物を盛るのに色々な木の葉を利用しましたが、カシワはその総称だった。すなわち食物を乗せる葉は何でもカシワと呼ばれたようです。
ホウの葉は今でも色々な食物を包むのに使われていますが、昔はホウガシワと呼ばれました。そんな中にはシイの木の葉も使われましたが、これは一枚のシイの葉ではなく枝付きのシイの葉を重ねて使いました。ヒノキやコノテガシワの葉も同様に重ねて食物を載せたり、米を蒸す時に土器の穴を塞ぐため隙間に敷いたりするのに使われました。
アカメガシワはご存知のように身近に生えていていますが、昔の人は田の神様を祀る時にアカメガシワ(赤芽のカシワ)の葉に白米を盛って供えたり、神社へのお供えに食物を乗せるのによく使いました。
アカメガシワはどこにでもあることから食物を乗せるのに好都合だったであろうことは容易に想像できます。こうした昔人の色々なカシワを使う習慣が今のアカメガシワやコノテガシワの名になって残っていると言う訳です。
※柏手(かしわで)について
神前で手を打つことを柏手と言いますが、上述の色々なカシワの葉と関係があるのでしょうか? 昔は宮中で食膳の調理をする人のことを膳夫(かしわで)と呼びました。そして神前に食膳を供える時に手を打ったことが柏手の語源であるとされています。柏手は神様に供物を召し上がっていただくよう敬い手を打って拝礼することですが、供物を乗せたカシワに手を打つと言い換えてみれば、大いに関係があるようにも思われます。(2023/12/29 た)
参考資料:牧野富太郎著「随筆草木志」
出雲市立図書館HP「図書館豆知識 20」
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