金剛山 ちはや園地では、カリガネソウが見頃を迎えてます(写真1)。おしべとめしべは花びらの中になく、上に伸びて円を描きながら前に垂れ下がっています(写真2)。とても不思議な形です。
カリガネソウは花の形を冬鳥の 雁かりに見立てて名づけられました[1]。おしべとめしべを小さな頭と長い首、花びらを羽と胴体に見立てると、雁かりが飛んでいく姿に見えなくもないです。
虫の羽音が聞こえてきました。ツリフネソウによくやってくるトラマルハナバチ[2]です。トラマルハナバチが花びらにつかまると、その重みで花が大きく折れ曲がります(写真3aと3bを見比べて下さい) 。花にぶら下がって蜜を吸っている間、ちょうど、おしべとめしべが背中に触れる位置に来ています。また、4本のおしべは長短2種類あり(写真2)、虫の大きさや動きが少し違っても、おしべとめしべを背中に触れさせることができそうです。
今度は、左側の花につかまって蜜を吸っています(写真3c)。先ほどトラマルハナバチがつかまっていた、右側の花は元の位置に戻っています。花びらとおしべ、めしべの形は、トラマルハナバチがつかまっている状態でも、つかまっていない状態でも、変わっていません。ガクの下あたりに、バネ付の蝶番のような回転を支える機構が仕組まれているかのようです。不思議な花の形と可動機構によって、おしべとめしべがより確実に虫の背中に触れるようデザインされています[3]。
カリガネソウの不思議な形と巧みな動きは、虫に花粉を運んでもらうためのものだったのですね。花びらが落ちた後、残ったガクの中には、ちゃんと実ができつつありました(写真4)。
今年はまだしばらく暑い日が続くようですが、都心より7℃ほど涼しい金剛山で、一足早い秋を楽しんでください。
(ます 2023/09/1)
【参考文献】
[1] 牧野日本植物図鑑インターネット版 原著 1940,1956、
http://www.hokuryukan-ns.co.jp/makino/index.php
花の形を帆掛け船に見たてて、ホカケソウ(帆掛草)とも言われると書かれています。
また、強烈に不快な臭いがすると書かれていますが、近くで花を見ていても特別いやな臭いを感じませんでした。どうも、葉や茎に触れるとガスのような臭いがするらしいです。
[2] 自然の不思議コーナー No.31 ツリフネソウとマルハナバチ
https://www.japan-parkranger.com/column/wonder/no-31-ツリフネソウとマルハナバチ/
カリガネソウが、マルハナバチの動きを利用し、不思議な形の花を動かして、おしべとめしべがより確実に虫の背中に触れるようデザインされているのに対して、ツリフネソウは、花の形によって、マルハナバチの動きを制限し、おしべとめしべがより確実に虫の背中に触れるようデザインされています。動と静の対比も面白いです。
[3] Masaki MASUDA, Atsushi USHIMARU, Airi ASADA(Kobe Univ.),
カリガネソウの曲がる花茎は雄の繁殖成功を高める,
日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月) P1-116 講演要旨
https://esj.ne.jp/meeting/abst/70/P1-116.html
カリガネソウの可動な花器官が、花茎の屈曲時におしべをマルハナバチの腹部に接触させ、腹部に花粉を付着させて、送粉・繁殖成功を増加させることを、花茎屈曲を制限する野外操作実験によって検証する研究の報告です。実験によると、花茎の屈曲により、おしべからの送粉が増加することが示唆された一方、めしべへの受粉には効果がみられなかったとのことです。
この記事を書いている時に、この研究報告を知りました。大変興味深いです。おしべへの接触、付着には、おしべの数、長短構成も影響しているのかなあ。また、花器官の可動を実現する花茎のつくりを知りたかったのですが、残念ながら、講演要旨からはわかりませんでした。機会があれば、花茎の中を見てみたいです。
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