5月の終わり、養成講座で金剛山に登った時、山頂広場(国見城跡)にササ*1 *2の花が咲いていました(写真1)。
近づいてみると、赤紫色の穂先から、風鈴の短冊のような黄色いおしべがぶら下がっています。穂の中から顔を出している白い羽根のようなものがめしべ(柱頭)です(写真2)。いかにも、おしべが風になびいて花粉が飛んでいきそうな花のつくりです。同じころに花を咲かせるヤマトグサが思い浮かびます(写真3)。
ササが花を咲かせるのは60年から120年周期と言われ[3][4]、広範囲にわたり一斉に花を咲かせることも観察されています[4]。金剛山全体で一斉に開花していくのかなと思いましたが、花が見えたのは山頂広場の北西側斜面で(写真4)、山頂広場に向う道沿いのササは花を咲かせていません(写真5)。ササは地下茎でつながって広範囲に繁殖します[1]。ここでは同じ個体内で花を咲かせているのかもしれません。
ササは開花後40~50日位経つと実を実らせます。また、花を咲かせると枯死し、広範囲に開花するとその後数年間はササが回復しないそうです[4]。
時候のいきものとの出会いは、日々の暮らしに季節を感じさせてくれます。一方、ササは何十年もの歳月を経て、花を咲かせ、種を作り、次の世代に命をつなぎます。ササの開花に出会ってちょっと感動してしまいました。
金剛山に登る事があれば、ぜひ開花したササの様子を見て下さい。まだ、しばらくは花が咲いていると思います。
(ます 2023/06/08)
追伸:金剛山に登った時に、ササの様子を見てきました(上部の写真6)。
赤紫色だった穂は、色あせて実を付けているようです。花を咲かせていた頃には既に葉を落としていて、このまま枯れていくようです。ただ、周りには葉を茂らせたササが残っていて、一面すべてが枯れることにはならないようです。
(ます 2023/08/30)
【より深く知りたい方へ】
*1 ササとタケの違い
木のように大きく育つのがタケ、草のように背丈が低いのがササと思いがちですが、「成長が終わると皮が落ちるのがタケ、しばらく落ちないのがササ。大きいのがタケ、小さいのがササではありません。」と説明されています(参考文献[1] p.17)。この判断基準について、「これは日本独自の判断であるが、いつの間にか海外でも定着しつつある。」(参考文献[2] p.213)とも書かれています。
日本ではササもタケも身近に見られるので、世界中どこでも育つと思ってしまいますが、ヨーロッパや北アメリカの大部分には自生していません。特に、日本と同じような温帯性のササ・タケは、東アジアやアメリカの東南部といった限られた地域だけに自生しています。(参考文献[1]p.17)
*2 花を咲かせたササの種類
ササ・タケは種類が多く識別が難しいです。素人ながら図鑑[2]を調べてみると、葉の周辺の隈取りや葉の幅、稈鞘輪上部の膨らみ、並びに、分布域などから、ミヤコザサ(p.116)の可能性があると考えています。もし、間違っているようでしたら、ご指摘頂けるとありがたいです。
【参考文献】
[1]内村 悦三、タケの大研究、PHP研究所、2019/5/10
繁殖の様子はp.12に説明されています。また、ササとタケの違いについては、p.17に説明されています。
[2]内村 悦三、タケ・ササ総図典、創森社、2014/11/14
[3]岡本 透、齋藤 智之、ササの一斉開花の周期は何年なのか?
-木曽およびその周辺地域の歴史資料から分かったこと-
第128回日本森林学会大会、セッションID: P2-072、2017/03
「タケ・ササ類の開花周期が固定されていることは、世界的にも古くから注目され、多くの分野で研究されてきた。それにもかかわらず、日本のササの開花周期は60年から120年と曖昧な表現で認識され、最近の分子生態学的手法を用いても確定していない。」と書かれてます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jfsc/128/0/128_495/_article/-char/ja/
[4]ササが咲いていませんか、長野県林業総合センター ミニ技術情報、平成11年6月
https://www.pref.nagano.lg.jp/ringyosogo/joho/minigijutsu/documents/mini13.pdf