スズメバチといえば、ウルシやマムシとともに府民の森の「危険な生き物」の代表選手です。特にこの時期、9~10月はハチの動きが活発になり、危険な時期のピークだと言われています。
「危険な生き物」であるがゆえに、「どうすれば刺されないか?」「刺された時の対処」に意識が向きがちで、スズメバチそのものに興味を持ちにくくなってはいないでしょうか?
チャイロスズメバチと出会うまでは、私もそうでした。
9月、「珍しいチャイロスズメバチの巣を発見」という報告を聞きました。初めて聞く名前だなと思い、どんな虫か調べてみました。すると、一番上の見出しの言葉「スズメバチより強いスズメバチ!?」と驚かされたのです。
チャイロスズメバチ(以下チャイロ)の女王は、キイロスズメバチ(以下キイロ)やモンスズメバチ(以下モン)の女王を殺して巣を乗っ取り、その働き蜂に自分の子供を育ててもらうのだそうです。
イメージとしては、鳥の託卵(たくらん)に近いかもしれません。ウグイスの巣にホトトギスが卵を産み、先に生まれたホトトギスのヒナが、ウグイスの卵を巣から落として、自分だけ生き延びてウグイスに育ててもらいます。
ウグイスと同じところは、「自分では巣を作らない」「他の種類の巣を利用」。
異なるところは、「巣の女王を殺す」「そこの働き蜂を自分のために働かせる」。
そして何と言っても「巣の元々の働き蜂が寿命で死んだら、後はチャイロだけが残る」というすさまじさ。
人間関係がドロドロの昼ドラも真っ青です。
さて、ここで角度を変えて見てみましょう。そんなチャイロが生きていけるのは、どういう環境でしょうか? 乗っ取らせてくれるキイロやモンがたくさん生息している環境でないと、生きていけません(社会寄生性というそうです)。「珍しいスズメバチ」と報告があったように、数は非常に少ないそうです(中部園地からも先日スズメバチの報告があり、他の種類は数百に達する中で、チャイロはたったの数匹)。
昆虫類では食物連鎖のトップクラスにいるスズメバチの仲間も、内部事情は複雑でした。
似たような乗っ取りスズメバチは他にもいました。その名もヤドリスズメバチは、自分の働き蜂さえ産みません。
乗っ取りとは少し違いますが、ヒメスズメバチは、同じスズメバチ属のアシナガバチの幼虫とサナギのみを、自分の幼虫の餌としているようです。
また、スズメバチの巣の中にいるのは、乗っ取りバチだけではありませんでした。巣の掃除(栄養価の高い幼虫の屍や餌の残骸を食べて暮らす)をする虫、幼虫をこっそりいただく虫、スズメバチの成虫に寄生する虫…と、雑居住宅のような
のです。今、渡りをしているタカの1種ハチクマは、スズメバチの毒針も何のその、雑居住宅を一網打尽にし、幼虫やサナギを餌とします。
今よく聞かれる「生物多様性」をスズメバチという側面からもうかがうことができます。少し強引にこじつけましたが。
チャイロを知って、私はスズメバチを排除すべき危険な生き物としてだけではなく、別の見方もできるようになりたいと思い始めました。
とは言え、この時期、知らずに巣の近くを通れば、防衛本能から向かってくることもあるでしょう。スズメバチのサインを見逃さず、気持ちよく秋の園地を分かち合いたいものです。