2019/3/6(水) さんさくの路の小池の卵塊その後
追記:3/18(月)無事、卵隗が孵化していました。
今年もさんさくの路の東屋横の池では40ほどの卵塊が観察されました。
しかし池の水が干上がっていて、ほとんど泥の上に産み付けられているような状態です。このまま行くと、氷結して卵が死んだり、卵が孵化しても水の中に入れずオタマジャクシになっても生きて行けないかも知れません。
第2キャンプ場の池では、わずかに水たまりがあり、その中に7~10個ほどの卵塊が見られました。ここでもほとんど水が干上がっています。
何とかまとまった雨が降ればいいのですが...。(2019/3/3た)
1.今年の調査のねらい
昨年、カタクリの開花数調査に続いて、アリによる種の散布の様子を自然の不思議のコーナー(No.21)で報告させてもらいました。種が見つかったら次は発芽を見てみたくなるのですが、くろんど園地のカタクリの森は、2014年10月に球根(鱗茎)が植付された個体群であって自生ではありません。そこで、この個体群(*1)の維持・成長の予見のために、今年は、種から発芽した実生の有無だけでなく、植付されて以降に生まれた若い個体にも着目して、個体群の成長状況を調査してみました。
2.調査結果と考察
各調査の計数は写真と現地での目視によります。調査方法の詳細については、文末のpdfファイルを参照ください。
(1)開花について
開花数は約1300で昨年比+30%、開花期間は3/18頃~4/25頃でした(図1,写真1)。今年は開花が早かったからか、調査中にカタクリを訪れたのはハナアブ類だけでした。ちなみに、昨年はハナバチの仲間が訪れて、紫色の花粉だんごを作っていました(写真2)。
個体の栄養状態によっては、開花した翌年に開花しなくなることがあって(*2,3)、毎年連続して開花するとは限らないので、今年開花数が増加したことの説明は難しいですが、植栽されたカタクリの球根(鱗茎)の開花個体率が年を追って高まるという報告(*4)もあるので、調査を継続していきたいと思います。
図1.開花数と実生数、および、場所
左側 写真1.開花の様子
右側 写真2.紫色の花粉だんごを作るハナバチの仲間(昨年の様子)
(2)実生の有無と場所、および、アリの種散布関与について
全域を詳しくは調査していませんが、少なくとも150以上あり、数多く成長している場所は偏っているように見えます。また、花が密集している場所だけなく、区域Dでは、花から1m以上離れた場所にも発芽していました(図1)。
実生には種皮が付いているものがあり、種皮はエライオソームが切り取られていました(写真3(d))。じつは、昨年、アリの種散布を自然の不思議のコーナーで報告した後に、花が咲いていた近くの落葉の下に、カタクリの種が集まっているところを見つけていました(写真3(c))。アリが種を運んできたところを目撃したわけではありませんが、巣に運んでエライオソームを切り取った後に、放置したのだと思われます。昨年観察した、種の切り取りや運び出し、エライオソームが切り取られた種の放置、そして、今年の種皮付きの実生で、アリによる種の散布から発芽までがつながり、アリによる種散布への関与が確認できました。カタクリの森は高低差3m程度の斜面になっているので(図1)、雨水や風の影響もあると思いますが、アリの関与も含めて、種は花が咲いている場所から広がって散布されているようです。
今年の調査の際に思ったのですが、アリは何枚も重なった落葉の下に種を置いてくれるので、花から種が落下した状態に比べると、夏の直射日光をしのげる効果もあるのかもしれません。ところで、落葉をめくっているとムカデが出てきました(写真4)。土壌の節足動物には種を食べるものもいるらしいですが、ムカデは違いますよね。ともかく、落葉をめくる際には、ムカデに刺されないように、素手ではなく枯れ枝などを使った方がよさそうです。
上側 写真3.アリによる種の散布から発芽までがつながり
(花、種、実生は同じ個体の追跡ではありません)
下側 写真4.落葉をめくっていると出てきたムカデ
(3)実生、および、若い個体の成長状況について
実生については、その存在と全域でのおおまかな数はわかりましたが、3年半前に球根が植付された個体群ですので、2~3年生の個体が成長している可能性もあります。この若い個体は実生よりも丈が低く小さく(*2)、識別が難しいので、80cm四方の調査領域を持つコドラートと呼ばれる枠を仮設し、20cm四方ごとに詳細に調査しました。
調査用枠による調査は労力がかかるので、実生と花が数多く見られた場所(*5)の中から調査箇所(80cm x 80cm)を4箇所設定して行いました(位置は図1参照)。葉の形や長さに基づく成長段階(*2,4)ごとの個体数を調査し、2~3年生と思われる小さな個体を、3個体(区域Aの①②)と14個体(区域Dの①②)確認できました(写真5、例えば(b))。また、同様の方法で、結実数も調査し、今年は開花個体のうち80%程度が結実していることを確認しました。
写真5.4つの調査区域の様子
この結果(図2(a))から、調査区域の齢構成(*1)のピラミッド型グラフ(図2(b))を作成してみました。これは、3年半前に開花可能な球根が植付されてできた個体群であることを考慮して、成長段階ごとの個体数から推定したものです。成長した個体に対する実生の割合は植栽地での報告(*4)と比較しても遜色なく、良好そうです。2~3年生の個体については先例のデータはないですが、2年以上生存できた個体ではその後の生存率は安定していた(*3)との報告がありますので、カタクリの寿命を30年とすると、既に成長した個体が亡くなるまでの18年間に、毎年、(既に成長した個体数)÷18個の2~3年生個体が生まれて成長することが望ましいので、区域Dの箇所①②では個体群は維持可能で、区域Aの箇所①②では維持は微妙な感触です。
一方、個体群全体では、全個体数が調査できていませんが、実生数(150以上)は無性の成長した個体を含まない開花数1300だけに対しても、かなり少ないです。2~3年生の若い個体は、開花数の調査で全域を見た際に、数十オーダーで集中している箇所は見かけられなかったので、現状では、個体群の維持には十分な数の実生と若い個体が成長しているとは言えなさそうです。
図2.調査箇所における成長段階ごとの個体数と推定齢構成
3.今年の調査を終えて
今年は、数多くの実生が見つかりました。森林整備の下草刈りが春先の種の成長にも良い影響を与えたのかもしれません(*4)。また、実生の場所が偏り、花から1m以上も離れた場所にも成長していて、アリの力も借りて種を散布しながら、動けないはずの植物がゆっくりと移動していく様を想像することもできました。一方、現時点では、2~3年生と思われる若い個体の数は多くはありませんでした。この個体群は植付されてまだ3年半ですので、まだ時間がかかるような気もします。
今年から成長状況の定点観測を始めて、今後の継続的な調査・観察の準備ができたと思っていたのですが、種の動きが想像以上に大きい場所があって、しかも10年程度の期間では空間的にランダムな動きでもなさそうなので、少ない調査箇所で個体群全体を代表することができず、調査方法を見直さないといけないようです。幸い、今年の実生の位置はいくつか確認できましたので、来年も実生の成長は観察できそうです。この地で生まれた実生が成長し花を咲かせる頃までは、見守っていければいいなあと思ってます。(M.M)
参考文献
1)高等学校理科用 文部科学省検定済教科書 生物 5編2章 個体群と生物群集.東京書籍.2013,p.308-333
個体群、個体、成長、齢構成といった用語を参考にさせて頂きました。
2)河野昭一.植物の世界(草本編上)(ニュートンムック).2001,p.6-37.
3)大河原 恭祐.カタクリにおける長期個体群動態ー開花・結実パターンと若齢個体の休眠について.2004,日本生態学会 第51回日本生態学会大会 釧路大会
4)養父 志乃夫.造園雑誌.カタクリ個体群の形成ならびにその個体群の育成管理上の指針.1988,51(4).p.228-236
5)石川 幸男.自然観察(北海道自然観察協議会).小さなカタクリの大きな秘密 第二回 個体群動態の解明.2007,No.85,p.4-5